表題番号:2007B-117
日付:2008/03/25
研究課題クロコウジカビの胞子をモデルとした細胞内酸化ストレスの1細胞定量的モニタリング
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 理工学術院 | 教授 | 桐村 光太郎 |
- 研究成果概要
- クロコウジカビ(Aspergillus niger)の胞子(分生子)は単細胞かつ1倍体の単核であり、非栄養条件下ではそのままの形状を維持する。一方、栄養条件下では発芽し、多細胞かつ多核の菌糸を形成し成長を行う。したがって、クロコウジカビの胞子は形態的な変化や分化を観察可能な極めて有用なモデル細胞と考えることができる。申請者は、このクロコウジカビの胞子を利用した細胞内酸化ストレスの定量的モニタリング系の開発を目的として、本研究ではシアン非感受性呼吸系を構成する酵素alternative oxidaseおよびその遺伝子(aox1)を素材とした蛍光顕微鏡下での非破壊的観察を可能にする実験系を構築した。まず、クロコウジカビのaox1破壊株DAOX-1株を作製し、alternative oxidaseの活性が消失していることを確認した。つぎに、aox1のプロモーターの下流にaox1とegfp(緑色蛍光タンパク)の融合遺伝子を連結し、これをDAOX-1株に導入してAOXEGFP-1株を作製した。胞子を接種して栄養条件下に置き成長させたAOXEGFP-1株の菌糸では、alternative oxidaseの活性が検出され、EGFPによる緑色蛍光がミトコンドリアと同位置に観察されることから、融合遺伝子aox1-egfpが発現していることを確認した。以上より、aox1の発現に関して、alternative oxidase活性とEGFPの緑色蛍光をマーカーとして追跡可能な実験用菌株の作製が可能なこと、その代表株としてAOXEGFP-1株が利用可能なことを明らかにした。しかし、菌糸は糸状の多細胞で老若細胞が混在することから、aox1の発現を経時的にあるいは定量的に測定することが困難であった。一方、AOXEGFP-1株の胞子について試験したところ、未発芽な状態でもEGFPの蛍光が観察され、胞子懸濁液についてalternative oxidase活性やシアン非感受性呼吸活性が検出された。これは、胞子の状態でaox1の発現あるいはシアン非感受性呼吸活性が検出された初めての成果である。 さらに、解析ソフトで1胞子ごとのEGFP蛍光量を計測し、100個以上についての測定値を平均することで定量的で再現性のある1胞子当たりの蛍光量を測定することを可能にした。また、非栄養条件下で胞子懸濁液に種々の酸化ストレスを与えることや抗酸化剤(酸化ストレス緩和剤)を添加することを行い、EGFPの蛍光強度とシアン非感受性呼吸に相関があることを明らかにした。1細胞ごとに区画してEGFPを指標としたaox1の発現を定量的に計測することや経時的に変化を与えることでEGFPの蛍光強度が変化することを明らかにして、細胞内の酸化ストレスをモニタリングすることが可能なことを明らかにした。以上を通して、クロコウジカビの胞子をモデルとした細胞内酸化ストレスの1細胞定量的モニタリングに成功した。今後は、本実験系を利用して種々の酸化ストレスに関する細胞の応答を簡便に試験することなどが可能になると考えている。