表題番号:2007B-116 日付:2009/04/09
研究課題進化分子工学を利用した新規な可逆的脱炭酸酵素の開発とバイオ生産プロセスへの応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 桐村 光太郎
研究成果概要
 本研究では、申請者らが発見した新規な酵素を利用した可逆的脱炭酸酵素を利用したバイオ生産プロセスの開発に関する研究を進めた。可逆的な脱炭酸酵素として、申請者らはgamma-レゾルシン酸デカルボキシラーゼを取得しているが(Biochem. Biophys. Res. Commun., 324, 611-620, 2004)、当該酵素(以下Rdcと称する)の遺伝子をクローニングし、大腸菌を宿主として大量発現することに成功した。Rdcをコードする遺伝子に関してその機能を検証するため種々の部位に改変を加え、酵素機能の改変との関連性について検討した。その過程で、His164とHis218をAlaなどの他のアミノ酸に置換すると脱炭酸活性と炭酸固定活性の両者が消失するため、His164とHis218の2つのアミノ酸残基がRdcの活性発現に必須なことを見出した。また、数箇所のアミノ酸の改変により活性の向上や一部機能の改変が可能なことを明らかにした(注:知的所有権保持などの観点から詳細省略)。また、Rdcをコードする遺伝子を保持する大腸菌を最適条件下で誘導剤IPTGを添加して18 h培養することによって、Rdc活性として 0.39 unit/mgの組換えRdcが得られた(活性の表示は可溶化タンパク当たりの比活性として表示)。これは、原株Rhizobium radiobacter WU-0108によって得られるRdcの活性と比較して約4倍に相当し、組換えRdcの単離精製も容易に行えることを確認した。つぎに、組換えRdcを精製したり無細胞抽出液を調製せずとも、当該大腸菌細胞自体を「組換えRdcを保持する生体触媒」として利用しgamma-レゾルシン酸生産が可能なことを明らかにした。そこで、組換え大腸菌をOD 40(乾燥細胞量として 26 g dry-cells/L)となるように反応溶液中に分散させ、gamma-レゾルシン酸生産の生産試験を行った。変換効率を重視した最適反応条件下では、7 hの反応時間で20 mMのレゾルシノールから8.8 mMのgamma-レゾルシン酸を生産することが可能で、モル変換効率は 44%に達した。生産量を重視する反応では、16 hの反応時間で70 mMのレゾルシノールから26 mMのgamma-レゾルシン酸を生産することが可能であった。以上より、研究室レベルでのgamma-レゾルシン酸生産バイオプロセスの構築に成功した。gamma-レゾルシン酸は機能性高分子化合物や医薬品の原料として大きな用途がある。また、当該バイオプロセスを利用して多種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を生産することも可能である。さらに、反応に利用した組換え大腸菌の細胞は遠心分離(6,000 X g, 30 min)で反応液から用意に回収することが可能で、少なくとも5回までは再利用が可能であり、バイオ生産プロセスの利用において大きな特色と考えられる。一方、本研究を通じて、自然界から単離した真核微生物にサリチル酸デカルボキシラーゼを発見した。本酵素も芳香族ヒドロキシカルボン酸の生産に利用可能で、バイオ生産プロセスへの適用性も見出している。