表題番号:2007B-084 日付:2010/11/08
研究課題筋原線維の示すスパイラル反強誘電構造の光第2高調波干渉顕微鏡観察
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 上江洲 由晃
(連携研究者) 先進理工学部 教授 石渡 信一
(連携研究者) 先進理工学部 助手 島本 勇太
研究成果概要
生物の筋肉は階層構造をもつ。筋肉は直径100μmの筋繊維の束からなり、この筋繊維は直径1μmの筋原線維が集合したものである。さらに1本の筋原線維は、サルコメアと呼ばれている単位が線維軸方向に約2μmの周期で規則正しく並んでいる。サルコメアはミオシンフィラメント、アクチンフィラメント、タイタン、などから構成され、極性をもつバンドと極性を持たない部位からなっている。この構造はすでに米国や日本のグループによって光第2高調波(SHG)顕微鏡で観察されている。興味深いことはサルコメアはその構造から、M線と呼ばれる中央線を挟んで極性が反対向きの構造をとるといわれている。しかしながら今まで実験で直接にこの極性構造を観察して例はなかった。本研究は、上江洲研究室で10年に渡り開発してきたSHG干渉顕微鏡を用いて、世界に先駆けてこの反転分極構造を観測した。成果をまとめると次のようになる。
(1)筋繊維は期待していた以上の大きなSHGがある。強度を単純に比較すると、よく用いられる非線形光学結晶ニオブ酸リチウムのd22成分の1/700に達する。
(2)周期反転分極をもつということは、筋原線維を一種の反強誘電体とみなすことができる。
(3)筋原線維の周期性反転分極構造は、位相を同じにして束ねられて筋繊維となる。SHG強度が大きい理由もこのコヒーレントな構造に由来する。
(4)もし軸方向に光を通すと、筋繊維は一種の擬似位相素子となる。周期性が2μmであることから、紫外光への波長変換素子として魅力がある。生体の中でこの現象を利用すれば、拒否反応なく埋め込んだ波長可変の光源ともなるであろう。