表題番号:2007B-083 日付:2010/11/08
研究課題量子常誘電体の不純物効果ー本質的不均一性がもたらす巨大応答ー
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 上江洲 由晃
(連携研究者) 先進理工学部 教授 上江洲 由晃
(連携研究者) 先進理工学部 助手 浅沼 周太郎
研究成果概要
凝縮系物理においては、外場に対して大きな応答特性をもつ物質を開発することが基礎の観点からも応用の観点からももっとも重要なテーマのひとつとなっている。線形応答理論によれば、原子分子のミクロな揺らぎが大きな感受率をもたらす。このもっとも典型的な現象が相転移である。そこでは相転移と直接関連した秩序変数のゆらぎが発散的に増大し、秩序変数と共役な外場に対する感受率が巨大な値をとる。この現象は2つの競合する力が働き、その拮抗する温度で系が不安定になるために生じる。強誘電体の場合には、強誘電相を引き起こす長距離クーロン力と、常誘電相に引き戻そうとする短距離的な復元力がその役割をはたす。この考えを推し進めて、より多くの力が競合する状況を作り出せば種々の外場に対して物質は不安定性を示すことになり、多機能性をもった系や巨大な応答特性をもつ材料を開発することが可能となるであろう。
 本研究はこのような観点から研究を進め、典型的な量子常誘電体であるペロブスカイト酸化物タンタル酸カリウム(KTaO3、KTO)にリチウム(Li)をわずかに添加した系(KLT)を対象としている。
 実験手段として、SHG顕微鏡、X線回折、中性子散乱、誘電スペクトロメータを相補的に用いて、従来知られていなかった、あるいは非常に曖昧な概念しか存在しなかったKLTの極性状態の秩序形成と臨界現象に関して次のような結論を得た。
(1) KLTがリラクサーであることを4つの基準を設定し、それをすべて満たしていることを実験的に明らかにした。
(2) KLTの複雑な極性状態の変化を、Li濃度、温度、電場の多元パラメター空間で初めて明らかにした。
(3) KLTの臨界最終点が三重臨界点の近くにあり、そのために大きな誘電特性がもたらされることを明らかにした。
これらの結果を研究業績欄に示す5つの論文((1)~(5))に発表した。