表題番号:2007B-078 日付:2008/03/24
研究課題株式所有構造、株価およびM&Aの内生的関係に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 准教授 蟻川 靖浩
研究成果概要
本研究の目的は、株式所有構造などコーポレートガバナンスの要因と、株価やTFPといった企業のパフォーマンス、そしてM&Aの意思決定の間にどのような関係があるのか、という問題について、定量的な分析を行うことである。とりわけ、これらの3つの要因に関する内生的な関係を明らかにすることが研究の最終的な目標である。

本研究については、データベースの構築、内生性を明示的に捉えるための理論・実証モデルの作成が必要であり、その作業は現時点で進行中である。従って最終的な結論を述べる段階ではないが、部分的に確認された分析結果について簡単に報告する。まず、M&Aの意思決定に対してどのような要因が影響をあたえるのか、という問題について1990年代後半から2000年代前半のデータを用いて定量的な分析を行った。そして、トービンqが相対的に低い企業の場合にはM&Aで買い手の立場になる傾向が弱い一方で、設備投資と同様にトービンqが高い企業については、成長戦略としてM&Aを採用する可能性が明らかに高いことが確認できた。また、流動資産の総資産に対する比率が高いほどM&Aに買い手として積極的に関わっていることも明らかとなった。すなわち、内部資金を多く保有しており資金制約に直面していない企業ほど、M&Aを実施しているといえる。

ただし上の分析では、実施されたM&Aがその後の買い手企業のパフォーマンスにどのような影響を与えているのか、についての分析は行われていない。他方で代表的な先行研究では、外資系企業が行ったM&Aは、その後の企業のパフォーマンスにプラスの影響を与えているという結論が示されている。しかし、トービンqで示されるパフォーマンスが相対的によい企業が積極的にM&Aを行っている面を考慮すると、上記のような先行研究の分析には内生性の問題が残っていることは明らかである。そこで現在、この点について明示的に考慮した分析モデルを作成した上で、M&Aとパフォーマンスの関係について研究を進めているところである。