表題番号:2007B-061 日付:2008/03/19
研究課題血球細胞の最終分化の場における分子間作用と組織特性
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 加藤 尚志
研究成果概要
本研究は,分化方向が決定した血球細胞の最終分化の組織環境(場の形成)について注目し,以下の課題に取り組んだ。
1)新規の動物モデルを構築する
2)血球数異常を呈する動物個体の血球産生の動態を多面的に解析する
3)細胞の最終分化の場の組織特性と,細胞相互および分子相互の関係を解析する

1)について鋭意展開した結果,各種の造血因子とその受容体の構造を明らかにしつつあり,分子的な理解を進めることが可能となる世界的にも貴重な新しい造血解析モデルが誕生しつつある。またゼノパスのEPOは,種を超えてヒトEPO受容体強制発現細胞の増殖を刺激することを確認した。
2)については,主要三血球系統の前駆細胞が増殖して最終分化に至るには,造血因子が必要であるので,既に取得したEPO,G-CSF,TPOのゼノパス相同遺伝子を動物細胞あるいは大腸菌で発現させて組換え蛋白質を取得した。一方,糖鎖付加,組織発現,活性などの基本を調べ,特に,哺乳類のin vivo活性に必須のN-結合型糖鎖が付加されないゼノパスEPOについては大腸菌発現系に注力し,結晶構造解析による種間交差性活性構造相関の解析の準備を進めた。同時にこれらの造血因子と受容体の抗体作製も進めた。
さらに正常個体や溶血性貧血個体の肝臓,脾臓,骨髄,腎臓などの造血器における血球産生局在の全体像を,特異発現遺伝子を用いたin situ染色組織像と,フローサイトメトリーの両者を併用して明らかにしつつある。
3)については,ゼノパスEPO分子には,N型糖鎖の付加がないことを見出し,肝臓においてEPO産生細胞と,血管外にあるEPO受容体を発現する赤血球前駆細胞が肝微小環境で相互に作用しあって赤血球産生の場を形成しているとするという新たな造血モデルを検証した。また,胎生期のヒトやマウスの肝臓でも,細胞接着因子群も加わって同様の環境が機能している可能性があり,種固有性に十分留意しつつ,種を超えた解釈を進める実験展開を進めた。