表題番号:2007B-054 日付:2008/03/20
研究課題インターフェイスと自己-視覚による真正性の構成-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 北澤 裕
研究成果概要
本研究の目的を、「ヒューマン-コンピュータ・インターフェイス(HCI)」を通して、われわれ人間がどのように構成されるのかを、「見る」こともしくは「視覚」を中心とした、視覚社会学および視覚文化論の観点から明らかにすることに置いた。特に、HCIでの「ヴァーチャル」な世界を見るという限定された内容から、実際の生の「現実」世界を見る行為にまで範囲を拡大し、ヴァーチャルな世界を見る視覚と、現実の世界を見るという本来的な視覚との競合やせめぎ合いについて検討を加え自己構成の今日的なあり方を問うことにある。
 「自己の構成」という点に関しては、「真正性」という概念のもとで検討を進めた。真正な自己とは、ミシェル・フーコーが指摘する「自己への配慮」、すなわち自己の身体的・精神的総体の陶冶を通じて世界や物事に関わることで自己達成を果たし、自己の自己に対する適切な関係を定立する真の自己あり方を意味している。ほんものであり本当の現実の世界を実際にこの眼で見て確かめることは、インターフェイスを介してヴァーチャルな世界に捕らわれこれを眺める行為とは性格を異にし、人間の本質、人間の本来のあり方やその根源と関係があるといえ、真正な「自己の構成」と関わり合いをもつことになると考えられる。現実を見る行為の特徴が明らかにされるなら、これと対照的に、インターフェイスを介したブログやSNS、メタバースなどのヴァーチャルな世界、およびこれを通して対象を見る行為の特徴をより明確にすることが可能となり、視覚を通じて行われる「自己の構成」についての問題やその相違をより鮮明に呈示することができるからである。
 この「自己の構成」の比較は、「自己」に対する「他者」や「他性」という観点からも検討を加えた。真正な自己は今ここにおいてではなく、一般的に、これを越え出た他の時点や他の場所、あるいは、脱時間、脱場所化された対象、ここにあるものを見ることとは別の非日常的な対象を見ることに求められ、また求めるべきものとして想定される傾向があるからである。こうして、今こことは異なった他性を実際の現実において本当に見るという点と、真正な自己の構成とを結びつけ検討を行い、「インターフェイス」を見ることによる自己の存在の有り様とを比較検討し、これらの根本的な相違が、われわれにどのような影響を与えるのかを捉えた。研究は継続中であるが、今回の成果は、『他性と真正性-パーフォーマティブな自己構成-』、『パラドキシカルな自己-エピソードと視覚-』の二本の論文において公表し、ポストヒューマンのリフレキシブでパフォーマティブな姿を明らかにする。