表題番号:2007B-038 日付:2008/04/12
研究課題哲学的歴史理論としての「グローバリゼーション」論の可能性の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 鹿島 徹
研究成果概要
 本研究は、その計画書の本来の提出先である日本学術振興会により、2007年10月に科学研究費補助金基盤研究(C)として採択された。それゆえこの特定課題研究費による研究は、その採択をもって中断され、2009年度まで3年間にわたる同補助金による研究へと移行したことを、はじめに断っておきたい。
 2004年度から2006年度までの3年間にわたる科学研究費補助金基盤研究(C)「現代における歴史哲学(哲学的歴史理論)の可能性の解明」の成果を受けて、本研究では哲学的歴史理論を、その基礎的分析論としての「歴史の物語り理論」と、その発展=転回部門としての「哲学的グローバリゼーション論」という2部門に区分して展開する、という構想のもとに、後者の「哲学的グローバリゼーション論」の可能性を解明しようとしたものである。さまざまな分野において研究が進むグローバリゼーションという事象に哲学の立場からアプローチするに当たっては、(1)「歴史の物語り理論」による基礎論的分析を土台に論を進めること、(2) グローバリゼーションを具体的に規定して「新自由主義的グローバリゼーション」ととらえること、(3) 経済的・政治的・文化的・イデオロギー的次元にわたるグローバリゼーション現象にたいして特にそのイデオロギー的次元に焦点を当て、既成のグローバリゼーション論およびその思想的影響にたいし批判的な分析を行うことが主要任務になること、そのことをまず明らかにした。
 直接に批判的検討の主題としたのは「歴史意識」である。「期待の地平」(通常「将来」と呼ばれるもの)において、さまざまな機構・社会組織がスクラップ・アンド・ビルドによる無限のイノベーションのもとにあり、個人の人生の内実は投資と回収のサイクルをモデルにした転職・資格取得などによるキャリアアップであると考える。「経験の地平」(通常「過去」と呼ばれるもの)においては、めまぐるしく変動する職業生活のなか、過去の人生のストーリーの蓄積は現在の生の方向付けとして機能しなくなるとともに、ナショナルな社会統合の必要のなかで強化されるナショナルヒストリーの流布により、「自国の歴史」として正史化されたものへのアイデンティファイが進む。「イニシアティヴ」(通常「現在」と呼ばれるもの)においては、商品として提供されるものを消費することによる欲求充足が自己目的化される。これが新自由主義的グローバリゼーションのもとにおける「歴史意識」の典型的なありかたであることを解明した。