表題番号:2007B-027 日付:2008/06/02
研究課題経由点と運動プリミティブを基礎とする書字運動の脳内表現に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 福沢 一吉
研究成果概要
Wada and Kawato(1995)は書字運動は多数の経由点(書字する場合に手先が経由する必要のある点)で表現されており、経由点間の到達運動の組み合わせであると仮定した。一方、小池ら(2005)は筋肉が使われる方向が変化する境界を運動の基礎単位(運動プリミティブ)と考え、計算理論的に抽出される経由点と、生理学的に引き出される運動プリミティブの境界が対応することが示を示した。これらの知見を背景に頭頂葉性純粋失書の書字運動の内部表現に関する考察を行った。【症例】症例A.U.44歳、男性、右利き、左頭頂葉皮質下出血、発症時右下肢不全麻痺、神経心理学的には発症時に失行症と書字障害。健常者55歳、男性、右利き【方法】被験者は「あ」を普通速度と速い速度で書き、その間、被験者の右手先の運動軌道を3次元磁気計測装置FASTRACKによって計測し、書字運動軌道と運動プロファイルを解析した。書字運動軌跡の実測値をもとに躍度最小モデルを使い、理論的な経由点を抽出した。【結果】健常者では、理論的な経由点を元に再生した軌道と実測軌道がほぼ一致した。また、運動時間を標準化してみると、書字運動速度が変化しても、経由点の数と、経由点が出現する時空間的位置がコンスタントであった。一方、失書を伴う頭頂葉損傷例では、理論的な経由点を元に再生した軌道と実測軌道が一致せず、書字運動が変化すると、それに伴い経由点の数と、経由点が出現する時空間的位置が変化した。【考察】健常者の結果から、書字運動の内部表現は速度ごとに表現されているのではなく、1つの内部表現から適宜、速さに応じた経由点数とその時空間的位置が呼び出されていることが示唆された。一方、頭頂葉損傷例においては内部表現から経由点が書字運動速度に応じて、適宜、最適に引き出されず、このことが書字障害の一因であることが示唆された。