表題番号:2007B-025 日付:2008/03/19
研究課題社会の複雑化に関する比較考古学的研究 ―環太平洋地域を中心に―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 菊池 徹夫
(連携研究者) 文学学術院 准教授 寺崎 秀一郎
研究成果概要
 本年度は、残念ながら科学研究費補助金は得られなかったが、ありがたいことに大学の特定課題研究助成費が与えられたので、研究代表者の菊池はカナダ、ドイツおよび日本国内において、短期間ながら関連する調査研究を行った。また、分担者の寺崎秀一郎は、中米マヤ地域でのフィールドワーク等を行い、いずれも大きな成果を得ることが出来た。以下に成果の詳細を報告する。
 菊池は、新学部発足や文化庁(文化財、世界遺産等)各種審議会をはじめ学内外の用務に忙殺されたほか、菊池、寺崎がともに加わって文科省の企画プログラムとして採択された「考古調査士養成プログラム」を立ち上げたこともあって、長期のフィールドワークは叶わなかったが、夏休みにはカナダ(モントリオール マギル大学、ケベックシティー等)、アメリカ(シカゴ・フィールドミュージアム等)、年末年始にはドイツ(デュッセルドルフのネアンデルタール遺跡、ベルリンの各博物館等)を訪れ、所蔵されている主としてアメリカ大陸先住民、アイヌ、東南アジア、オセアニア地域など、アジア・環太平洋各地採集の考古学・民族学資料を中心に本研究課題に沿って比較考古学的調査研究を行い、また多くの研究者と情報交換を行った。国内でも、校務・公務の間を縫って北海道、宮城、群馬、長野、名古屋、および熊本において短期の資料調査を行い、大いに知見を広めることが出来た。
 一方、寺崎は、アメリカ大陸、先スペイン期における都市文明の一つである古代マヤを中心に調査研究をおこなった。主な研究対象地域は、ホンジュラス共和国西部に位置するコパン遺跡9L-22,23(El Grupo Residencial Norte)である。本研究は、2007年7月に文学学術院とホンジュラス国立人類学研究所との間で締結された共同調査保存プロジェクトの一端も担っている。また、2008年2月にホンジュラス北部コルテス県セリート・リンド遺跡で発見された埋葬についても、ホンジュラス国立人類学研究所からの要請により、検討を始めた。現在、発掘調査時の所見、出土土器の予備分析の結果、同埋葬は先古典期前期のものと目されているが、当該時期の埋葬については、マヤ地域のみならず、メソアメリカでも類例が極めて少ない。先古典期については、近年のマヤ低地における調査研究から、すでに都市が誕生し、社会の複雑化が相当程度進行していたことをうかがわせる事例が発見されているが、先古典期前期とはその前段階にあたり、社会の複雑化のプロセスを把握する上でも重要な資料と思われる。本研究課題の一環として取り組むべきものであり、埋葬人骨の詳細な分析が必要となる。本年度については、人骨そのものからの直接的な年代測定のためのサンプル採取をホンジュラス国立人類学研究所の協力のもとおこなった。右大腿骨の一部、ならびに人骨周囲で検出した炭化物を年代測定用に採取した。採取人骨については、レプリカ作成の後、加速器による年代測定をおこなう予定である。なお、レプリカ作成については、新潟県立看護大学藤田尚准教授の協力を仰ぐべく、調整を進めている。
 なお、寺崎が中心となって、ホンジュラス国立考古学研究所と早稲田大学文学学術院との間の協力協定が締結され、これに基づきマヤ考古学者の中村誠一氏が菊池の主宰する早稲田大学比較考古学研究所の客員教授に採用され、さらに11月には同研究所長エウラケ氏が本学を訪問して理事等と意見交換したうえ記念講演をされたことなども、本課題研究に関わる成果として特記しておく。