表題番号:2007B-015 日付:2008/03/11
研究課題歴史の中のバタイユ――宗教・革命・芸術・エロチスムの視点から
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 吉田 裕
研究成果概要
 今年度最大の収穫は、『バタイユの迷宮』を刊行できたことである。新著の刊行は、『バタイユ・マテリアリストⅠⅡ』(2001年)より6年ぶりのことであるが、かなり大部なこの書物(309ページ)により、中期のバタイユの宗教的探求――バタイユの中でもっとも重要な部分――についてまとめるという、年来の課題に切りをつけることが出来た。これまでの著書と併せ、1945年頃までのバタイユの、思想的(哲学、社会学、政治)および宗教的な探求の厚みをほぼとらえることが出来るようになったと考える。
 その次の段階は、時期で言えば、第二次大戦の終了以降、彼の年齢として40代後半以後の後期をとらえることである。この時期については、経済学と芸術論(おもに絵画論)が重要だが、今年はこれらの主題に触れることが出来た。一方では、彼の『マネ』を中心にした下記のいくつかの論考がその成果である。だが、他方で私にとって重要なのは、この主題はたんに取り残したいくつかの主題の一つであるのではなく、人間は自分の産み出す過剰なエネルギーをどのように使うかという、彼の思考の根本に対する現代的な回答を担っていることが明らかになってきたことである。過剰なものは、現代において、諸芸術の中にもっとも鋭く現れるとバタイユは考えたように思われる。そのことを証明するために、「過剰さとその行方」という主題を設定して考察を開始した。この論文は、彼の経済学(エコノミー)から出発して、至高性に関する考察を経て、おそらくマネ論やラスコーの壁画論、そしてカフカを中心とすることになる彼の文学論にまで、延長される予定である。第一回をすでに書き終えており、2008年3月にAZUR誌に掲載される。