表題番号:2007B-003 日付:2008/03/04
研究課題ペーター・フーヘルの詩における言葉の暗号化と沈黙の意味
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 斉藤 寿雄
研究成果概要
ペーター・フーヘルの後期の二つの詩集を中心に詩人の詩的作品の特質を考究しようと考え、2007年度特定課題研究助成費によって購入した文献を用いて以下の研究をおこなった。論考『ペーター・フーヘルの実存的世界』は、この研究成果をふまえて、2008年3月に刊行される政治経済学部紀要『教養諸学研究 124号』(2008年3月25日発行予定)に発表される予定である。
 旧東ドイツの詩人ペーター・フーヘルは、1949年から1962年まで高名な文学雑誌『意味と形式』の編集長をつとめた。しかし雑誌発刊後しばらくしてから、当局と編集方針で対立しはじめ、長い対立のすえ1962年に編集長を解任された。そして1963年からベルリン郊外の住居に軟禁され、新聞、雑誌、手紙の類を一切受け取ることができず、悪名高いシュタージの監視を受けるようになった。8年間つづいたこの軟禁生活ののち、1971年国際ペンクラブの介入によって、ようやく旧西ドイツに出国することができた。
本論考は、この間に刊行されたふたつの詩集『街道 街道』(Chausseen Chausseen1963年刊)と『余命』(gezählte Tage1972年刊)を中心に、作品に内在する詩的特性を考察した。これらの詩集に収められた作品は、政治的迫害を受けた状況下で生まれた政治詩と、第二次世界大戦以前に書かれた自然抒情詩の系統に属するものに大別することができる。しかし小論は、そうした表面的な層の下に、フーヘルの詩の本質をなすもうひとつの層が堆積していると考え、それが、孤独、喪失、死といったフーヘルの生存を脅かす実存的な層であることを検証し、さらにこの実存的な問題が、詩人の文学的姿勢と密接にかかわっていることを論証した。またこの層は、詩人の詩的言語を特徴づける暗号によって重層的な深みを帯びているが、その暗号がいかなる意味をもつかを解明することによって、詩人の詩的創造の秘密の在り処をあきらかにした。