表題番号:2007A-929 日付:2008/03/24
研究課題日米の気候変動問題をめぐる政治における規範の役割―「地球益」と国益との相克―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際教養学術院 教授 太田 宏
研究成果概要
今年度の研究では、主に米国議会の動向を追った。米国国内では現在の連邦政府の気候変動政策に反対する動きも顕著になってきており、国際的孤立そして技術革新の遅れに対する懸念が高まっている。例えば、民主党のジョセフ・リーバーマンと共和党のジョン・マケイン(次期共和党大統領候補)は2003年1月に上院で、温室効果ガス排出規制と企業のための排出量の売買(cap-and-trade)を認めることなどを要求した法案を共同提出した。この法案は43対53で否決されたものの、1997年9月に95対0の全会一致で、上院が京都議定書への調印拒否を決議した時に比べれば、上院議員の気候変動問題に対する認識と態度の変化は著しい。さらに、2006年の中間選挙で民主党が勝利して以来、上院での気候変動問題法案の提出ならびに法案審議にも拍車が掛かった。
こうした状況下、2007年にマケイン・リーバーマン法案の修正案が再び提出された。年間1万トン以上の温室効果ガスを排出する上流(輸送燃料)と下流(発電および産業)に排出規制を敷くというもので、2020年までに1990年レベルへの温室効果ガスの排出削減を目指す。この法案には、政府が排出枠を配分するが、削減義務を負ったものはオークション形式で排出枠を売買できる、といった特徴がある。ビンガマン・スペクター法案も2007年7月に上院に提出されている。その特徴は、セクター(産業、運輸、民生)別排出枠配分を提示し、排出取引の価格高騰を回避するための価格上限設定(price cap)の導入を掲げている。さらに、このビンガマン・スペクター法案が産業界よりだとして、2007年8月にリーバーマン・ウォーナー法案が提出された。上限価格の設定は、総排出量設定下での排出量取引(cap & trade)制度を否定するものだ、という環境派の反発を受けてprice capを設定しない等、より規制内容を強化したものになっている。民主党の次期大統領候補も、気候変動政策には積極的な取り組み姿勢を示している。一言で言えば、ヒラリー・クリントンの政策 (“Powering America's Future” 2007年11月)は、バラク・オバマの政策よりはるかに詳細である。さらに、州レベルや産業界さらには環境NGOの活動も含め、米国の気候変動政策の動向を注視する必要がある。今後さらに研究を深めて、可能なら次年度に論文として研究成果をまとめたい。