表題番号:2007A-864 日付:2008/04/16
研究課題フィールド情報学の視点からの参加型シミュレーションを用いた研究手法の拡張
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 菱山 玲子
研究成果概要
 情報技術を基盤とする「情報学」領域においては,企業活動や社会活動など実験室外の環境(フィールド)において多くの応用研究が展開されている.一方,フィールドにおける実践は統制が難しく,閉じた環境での実験評価・分析手法(従来の工学的アプローチ)を適合させることが困難である.この問題を解決するために,本研究ではフィールドから得られる定量的データからの知見に加え,実践を事例として扱う社会科学の分析手法を融合することで,「フィールド情報学」としての新たな研究方法論の獲得を目指した.そして,この方法論を獲得するために有効なアプローチとして,参加型シミュレーションを想定した実践的研究を行なうこととした.
 本研究ではまず,身近なフィールドである「大学」を対象に,パイロット的研究として大学生のキャリア観形成のための参加型キャリアコミュニケーションツールを構築し,これを大学3-4年生に適用した.この結果,就職活動に直面した際の固定観念やこだわりの発現を見出すことができ,学生のキャリア観・視野の拡大を促すことに成功した.
 更に,ビジネス,地球温暖化問題を対象とするコミュニケーションツールを開発し,学生や一般市民に適用した.これらのツールは事例を「シナリオ」として提供し,参加型シミュレーションとディスカッションを融合する形態でデザインした.実験から,フィールドにおけるツールの適用では対話も重要な役割を果たすこと,特に,専門家と非専門家の対話が未来の設計や伝達の協創としての役割を担えることがわかった.
 一連の研究から,フィールド情報学のための方法論として,参加型シミュレーションの有効性,予測・伝達特性を見出すことが出来た.更に,データの収集と解析,予測と設計,伝達のための方法論として,ケースライティングや会話分析の利用など,広く知られる他の研究方法論との融合も有益であることが予想される結果となった.