表題番号:2007A-858 日付:2012/03/05
研究課題レドックスポリマーの相分離制御に基づく高速・大容量エネルギー貯蔵材料の創製
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 小柳津 研一
研究成果概要
ポリビニルフェロセン膜やレドックス活性な対イオンを導入したNafion膜などにおいて、膜内電荷輸送はイオン移動に律速されることが知られている。Ansonらは拡散輸送の高速化に取り組み、親水・疎水型ブロックコポリマーをマトリクスとするナノ相分離系で、拡散係数の3桁上昇を達成している。低次元イオン伝導を可能とする規則的なイオンチャンネルの構築など、ポリマーの特性向上につながる方法論が進歩している一方、導電性ポリマーはエネルギー容量が小さく、レドックス反応の遅いジスルフィド類はレート特性に劣るため、電極活物質としての高速・大容量化に向けて新しい設計コンセプトが待望されている。代表者らは、ニトロキシラジカル/オキソアンモニウムカチオンのレドックス対が、安定な高速レドックス応答を示すと共に当重量を小さくできる点に着目し、イオン拡散チャンネルを精密設計することによって、レドックス容量を極限まで引き出せると着想した。本研究は、ニトロキシラジカルポリマーをはじめレドックスポリマー内の輸送現象を詳細解明すること、有限厚み層への電荷注入、拡散による電荷輸送、低振動数域での電荷飽和現象を分離して解析し、構造や基礎物性との相関を明確にすること、イオン種の溶媒和半径、ポリマー/溶液界面における溶媒和に関する検討から迅速応答する電荷補償イオン種を選定、電荷輸送の見かけの拡散定数を用いて移動度を定量的に把握することを目的として推進した。以下に成果概要を記す。

(1) 膜内輸送現象の解明
レドックスポリマー膜内の電荷の拡散輸送過程を交流インピーダンス法により解析し、電荷移動に支配される高振動数域、膜の有限厚みによるレドックス容量が観測される低振動数域と分けて定量化した。等価回路を用いた解析から電荷移動抵抗を求め、様々な材質の電極基板を用いて表面構造がポリマーとの接触界面に与える影響を明らかにした。ポリマー膜中の電荷移動を支配する抵抗成分を、高振動数域の複素インピーダンスから求め、ポリマーの一次構造や膨潤度との相関を解明した。等重量が小さく電極反応の可逆性が高いポリマーを代表例として、物質移動パラメータを電極界面における平衡状態の関数として求め、高速パルスアンペロメトリーの解析とあわせ、膜内輸送現象の全容を解明した。次に、膜内を拡散するイオン種の溶媒和半径、溶液との界面における溶媒和エネルギーに関する基礎的検討から、対イオンの拡散が電荷輸送と直接関連していることを実証した。セルフドープ型ポリマーの設計と合成も含め、幅広いイオン種の拡散挙動を電荷輸送の見かけの拡散定数を用いて定量的に把握した。

(2) イオン拡散過程の制御法の確立
さまざまな主鎖構造のポリマーを合成し、一次構造と膨潤度の相関を追究し、レドックスサイト間距離を考慮して膜内における効率高い自己電子交換反応の存在を明確にした。イオンの拡散性を十分高めることにより、ニトロキシラジカルなどのレドックス席への電荷注入が対イオンの追随にほとんど律速されず、自己電子交換による電荷の拡散輸送が溶液中と同様に効率よく進行する物質系として確立した。