表題番号:2007A-855 日付:2008/03/23
研究課題冷戦型科学技術の構造転換問題―1980年代米国の不正行為問題を事例として
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 綾部 広則
研究成果概要
本研究の目的は、科学におけるミスコンダクト(以下、ミスコンダクト)の発生が冷戦型科学技術体制の変化によって引き起こされているのではないかという仮説を検証することにある。周知のように、近年、先進諸国を中心にミスコンダクトについて注目が集まりつつある。こうしたミスコンダクトがなぜ発生するかについては、例えば、特にライフサイエンス関連の研究者人口の増加や、研究成果が商業化されるまでのリードタイムの短縮化などが指摘されている。
確かに研究を取り巻く環境の変化がミスコンダクトを生む素地となっている可能性は否定できない。しかしその一方で、ミスコンダクトがこれほどまでに増加しているのは、実は「社会」の意識がミスコンダクトを問題化するように変化したこともあるのではないか。このように本研究は、いわば原因論に加えて構築主義的な観点からもミスコンダクトの発生要因を探ろうとすることに特長がある。
もとよりこうした試みは一朝一夕に成し遂げられるものではない。そこでスタートアップの本年は、まず1981年の米国下院科学委員会での議論を手がかりにミスコンダクトに対する語りの特徴についてパイロットスタディを実施した。現段階で全体状況を総括するのは困難であるが、さしあたり現段階で認められる特徴を列挙すれば、ミスコンダクトを他の問題にも増して重要な社会問題として捉える志向性が強いこと、ミスコンダクトを個人の逸脱行為として捉える傾向が強いこと、研究成果の評価に対する時間意識が短縮化している可能性が強い等が認められた。このような志向性がどのような背景のもとに生まれたかについては、更に詳細な検討が必要であり、今後はその他、公刊された論考や報告書あるいは議事録をもとに調査を進め、いずれまとまった形で世に問う予定である。