表題番号:2007A-849 日付:2011/03/07
研究課題HIF-1 による肝内糖代謝リモデリング制御機構の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 合田 亘人
研究成果概要
 本研究課題では、糖尿病下における肝臓内の糖関連酵素発現リモデリングにおける生体内低酸素感受性転写制御因子であるhypoxia inducible factor-1(HIF-1)の生物作用について、肝臓特異的にHIF-1活性を欠失させた遺伝子改変マウス(HIFKO)を用いて検討を行った。その結果、通常食摂取したHIFKOマウスは、空腹時血糖(FBS)、経口糖負荷試験(OGTT)およびインスリン負荷試験(ITT)で、コントロールマウスと同等の血糖変化を示し、また主要な肝臓内糖関連酵素の発現量とその発現分布には大きな変化が認められなかった。一方、高糖質・脂質食(HFSD)を5週間摂取させた場合、コントロールマウスと比較してFBSおよびITTでは有意な変化は認められなかったが、OGTTでは投与後1時間まで有意な血糖上昇が認められた。OGTT時の初期インスリン分泌能は両群間において全く変化なかったが、後期インスリン分泌はHIFKOマウスにおいて上昇傾向が認められた。一方、単位面積当たりの膵臓のラ氏島数および細胞陽性率には、両群間において大きな変化は認められなかった。これらの結果は、HIFKOマウスにおいて認められた血糖クリアランス能の低下は、膵臓のインスリン分泌能の低下および骨格筋・脂肪組織などの末梢臓器におけるインスリン感受性の低下がプライマリーな原因ではなく、肝臓自身の糖処理能力の減少によるものであると考えられた。そこで、HFSD食5週間投与後の肝臓における主要な糖関連酵素発現を、遺伝子およびタンパク質レベルで詳細に解析を行った。その結果、低酸素に応答してHIF-1依存性に発現変化する代表的な解糖系酵素phosphoglycerate kinaseやpyruvate kinaseの発現は、HFSD投与によりHIFKOおよびコントロールマウスにおいてほんの僅かであるが上昇するものの、両群間において差は認められなかった。しかし、肝細胞へのグルコース取り込みを制御するglucokinase発現については、コントロールマウスでは5倍程度誘導が認められたものの、HIFKOマウスではこのような誘導が完全に抑制されていたことが明らかになった。以上の結果より、HIF-1は糖尿病発症初期に誘導され、肝臓におけるグルコース取り込みを制御することで、血糖降下作用を有していることが明らかになった。