表題番号:2007A-848 日付:2010/05/10
研究課題キラル・磁気光学ハイブリッド顕微鏡の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 朝日 透
(連携研究者) 先端科学・健康医療融合研究機構 客員研究員 田中真人
研究成果概要
物質のキラリティの研究は、アミノ酸、タンパク質、DNAなどの生体物質の構造と機能性の関係の解明、薬剤の効用と副作用の研究などに有用となる物質科学における緊要な学際的研究である。われわれは、直線複屈折、直線2色性、円複屈折、円2色性を同時に測定できる光学測定法(拡張HAUP法)を開発し、2それら異方的光学物理量の分光学的測定及び温度依存性の測定を可能とした「一般型高精度万能旋光計」(Generalized-HAUP、略称、G-HAUP)の開発に成功した。本研究では、その測定原理をイメージング技術に応用して、新しい顕微鏡「キラル・磁気光学ハイブリッド顕微鏡」を創設ために不可欠な光学系の改良ならびに測定プログラムの開発やその実証に必要な実験を遂行することとした。さらに、シンクロトロン放射光を用いた「キラル・磁気光学ハイブリッド顕微鏡」の開発への試験的な研究に着手することとした。
まずは、キラル光学効果の高分解能分光測定及び2次元イメージングのできる「透過型高分解能キラリティ顕微鏡」を試作するため、G-HAUPの光学系及びその駆動系、試料台、検出器、ノイズ低減機構、測定及びデータ解析プログラムを改良した。
次いで、その新しい光学系と測定プログラムを用いて、サリドマイドのキラル反転機構の解明に資するキラル光学的研究を行った。サリドマイドはキラルな分子構造を有するきわめて有用な薬剤であるが,溶液状態ではR体からS体,S体からR体へキラル反転することが指摘され、その機構は未だ十分理解されていない。一方、サリドマイドのキラル光学性質を測定し、その結果の正当性を確保するためには、サリドマイドのキラル結晶の構造を決定することが重要である。そこで、まず、我々はこれまで明らかとなっていないサリドマイドのキラル結晶につき、X線回折法を用いて構造解析した。サリドマイドの結晶はキラルな点群C2となり、2つのサリドマイド分子が環状水素結合して安定な構造を有していることが明らかとなった。さらに,G-HAUPを用いてサリドマイドのキラル結晶の光学的性質の波長依存性を調べたところ、再現性を確認する必要はあるものの、直線複屈折、直線2色性、円複屈折、円2色性の異常を見い出すことができた。