表題番号:2007A-834 日付:2008/07/26
研究課題《форма[形式]》とは何か 1920年代ロシア文芸学・芸術学における《форма》の概念
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 助手 八木 君人
研究成果概要
 2007年度特定課題研究助成費を受けた今年度は、ボリス・エイヘンバウムの
「形式」観の検討を行い、そこから派生してくる問題の一つである、エイヘン
バウムの文芸学における非文字テクスト的要素に着目し、口頭発表を行った。
エイヘンバウムの邦訳やフォルマリズムに関する研究は日本国内でも多く存在
しているが、エイヘンバウムの理論的側面に絞った研究はほとんどないので、
少なからず意義のあるものだといえよう。
 シクロフスキイ「手法としての芸術」と並んでロシア・フォルマリズムのマ
ニフェストといわれている「ゴーゴリの『外套』はいかにつくられたか」(1918)
の著者であるエイヘンバウムは、「形式主義」というレッテルの与える印象と
は異なり、彼の活動のいわゆるオポヤズ期(1918年から1923年)に構想してい
た文芸学においては、調音、身振り、表情といった文字テクストには表象され
ない要素を重視している。『ロシア抒情詩の旋律学』や『アンナ・アフマート
ワ:分析の試み』の読解を通して、これらの非文字テクスト的要素への関心が、
個々の作品を論じるための場当たり的な論理などではなく、1924年以降には作
品を論じる際に、意識的に文学史的アプローチを用いるようになるエイヘンバ
ウムにとって、一貫した理論的課題であったことを示した。本課題に沿った限
りで述べるなら、エイヘンバウムの「形式」は、調音や身振り、表情といった
非文字テクスト的なものの残余であって、意味や音に収斂することのない、
「声」を再現するためのモメントであるといえる。
 本課題の計画には入れていたものの十分には集められなかった国立芸術学ア
カデミーの資料などを踏まえ、この研究成果を、より広い同時代的文化状況の
中で意義付けるのが今後の課題となる。