表題番号:2007A-817 日付:2008/03/23
研究課題ジェイムズ・ジョイス作品に於ける人間身体の表象
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 専任講師 坂内 太
研究成果概要
 本研究では、ジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』を主な対象として取り上げ、この作品における機械テクノロジーと人間の身体の表象について研究することを目的とした。
 ジェイムズ・ジョイスが、1918 年から雑誌 The Little Review に『ユリシーズ』を連載し始めて以降、この作家の作品が世界文学に与えてきた影響は大きく、単に文学の枠を超えて、欧米のモダニズム文化に少なからぬ影響を及ぼしたことは明らかである。しかしながら、特に『ユリシーズ』において、当時の機械テクノロジーとそれが人間の身体に与えた脅威が深い影を落としていることを検討する研究は、ほとんどなされてこなかった。本研究では、『ユリシーズ』を中心としたジェイムズ・ジョイス作品の身体イメージが、如何に当時の機械テクノロジーと人間の身体との緊張関係に基づいて構築されているかについて、文学テクスト及び関連する視覚的資料の分析、同時にまたモダニズム文化における人間身体の表象とその図像学的分析を通してリサーチを進めた。その結果、膨大なカタログ式の描写で人間のありとあらゆる多様性を描きながら、機械テクノロジーによる破壊と暴力への嫌悪という一点において、主要な登場人物たちが、ジョイス自身の伝記的な事実を取り込みながら、深い共通点を持つ具体的な様子を知ることが出来た。同時に、『ユリシーズ』における機械と身体の表象の分析が、これに先立つ諸作品の詳細な分析を経ずには十全になしえないことも分かった。
 今後も引き続き『ユリシーズ』における身体とテクノロジーの表象を更に詳細に検討し、このテーマにおけるジョイス諸作品の相互連関の解明に努める予定である。