表題番号:2007A-602 日付:2012/11/09
研究課題富士山を観測塔として利用した雲核および降水洗浄過程に関するフィールド研究―東アジアの高層大気化学観測拠点を目指して―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 大河内 博
研究成果概要
 富士山を自然の観測タワーとみなせば,大気汚染物質の鉛直分布の解明に利用できる.また,霧水の化学組成を霧発生時から経時的に調べることにより,ガスおよびエアロゾルの雲内洗浄過程や霧水の酸性化機構の解明を行うことが期待できる.本研究では,富士山南東麓における霧水,ガスおよびエアロゾルの通年観測を行うとともに,夏季には富士山頂,富士山山麓における同時観測を行い,越境大気汚染物質の動態と雲(霧)による洗浄機構について検討を行った.
 霧水の採取は富士山南東麓の太郎坊(標高1300 m)で,本研究助成により新規開発した分割採取型自動霧水採取機DFC-2200(北都電機)を用いて行った.また,4段フィルター法により酸性ガス(SO2, HCl, HNO3, HNO2)およびアンモニア,大気エアロゾルを2週間毎に採取した.夏季集中観測時には,山頂と南東麓で揮発性有機化合物と多環芳香族炭化水素などの有害有機汚染物質の観測も行った.
 富士山南東麓における霧水の最低pHは3.19であり,体積加重平均pHは3.86であることが分かった(n = 114).霧水の主要陽イオンはNH4+で,主要陰イオンはNO3-であった.霧水酸性化の指標となるNO3-/nss SO42-比(当量比)は0.243~4.01(平均1.72)であり,富士山南東麓では霧水酸性度に及ぼす硝酸の寄与が大きいことが分かった.日本国内の他の山岳域(0.236 (立山)~2.81 (六甲山・夏季))で採取された霧水に比べても高い傾向にある.
 夏季に富士山頂と南東麓で同時に観測を行ったところ,富士山頂の霧水ではNO3-に比してSO42-の割合が高いことが分かった.日本国内ではSO2濃度がきわめて低いことから,S042-濃度が高くなる要因としては越境汚染の可能性が考えられる.また,約4000m近い自由対流圏高度に位置する富士山頂においても,ベンゼン,トルエンなどの揮発性有機化合物の大気濃度は南東麓(1300m)と同程度のレベルにあることが分かった.さらに,富士山頂で採取された雲(霧)水中には,これらの揮発性有機化合物がヘンリー則からの予測値以上に雲(霧)水に取り込まれていることがはじめて明らかになった.本研究により,富士山を用いた大気化学観測の有用性が示された.