表題番号:2007A-140 日付:2008/04/15
研究課題フランスにおける民衆的英雄像を巡る社会状況と出版文化の歴史人類学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 蔵持 不三也
研究成果概要
本研究は17世紀前葉に300余名からなる大盗賊団を率いてパリを震撼させ、1721年11月にパリ市庁舎前のグレーヴ広場で20代で車刑に処された頭領ルイ=ドミニク・カルトゥーシュが、その夥しい殺人や窃盗行為にもかかわらず、なぜ英雄になったか、こうした民衆的英雄化を仕掛けた出版文化がいかなるものであったか、そして当時の民衆文化のイマジネールが何でありえたかを、フランス国立図書館や国立古文書館、アルスナル図書館、パリ市立歴史図書館などに保管されている一味の手書き供述書や高等法院の裁判記録、カルトゥーシュ投獄中に上演されたル・グラン作カルトゥーシュ劇の台本、処刑翌年に刊行された著者不明の『高名なるルイ=ドミニク・カルトゥーシュの生涯と裁判の物語』などの一次資料、同時代のフランソワ・バルビエやジャン・ビュヴァらの年代記、さらに処刑後に次々と公刊・再刊・復刊されたカルトゥーシュ本などをもとに検討するものである。2007年の研究成果は、これらの基本的資料の収集を丹念に行い、数少ない先行研究も含めて、必要な史料・資料(図像データを含む)はほぼ網羅するところまでいった。また、パリの人類博物館に保管されているというカルトゥーシュのデスマスクと、パリ郊外サン=ジェルマン=アン=レイの市立図書館にあるというナダールが撮影したそのデスマスク写真については、なおもその行方を突き止めることができないままでいるが、その他のカルトゥーシュ関連箇所の写真撮影もほぼ終わっている。
 現在はこれらの史料・資料の解析が終わり、その成果を公刊するべく、鋭意執筆中である。2008年3月末現在、その分量はカルトゥーシュ時代にフランスをバブル経済で狂わせた財務総監ジョン・ローのいわゆる「ロー・システム」の詳述(第3章)も含めて、400字詰原稿用紙換算ですでに1000枚を超えているが、最終的には本文だけで2000枚程度になる予定である。膨大な分量の著作だが、幸い出版社も見つかり、現在は年内刊行に向けて自らを叱咤激励しているところである。