表題番号:2007A-128 日付:2008/03/24
研究課題燃料電池用部分フッ素化イオン交換膜の合成と機能評価
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 鷲尾 方一
研究成果概要
はじめに
これまで固体高分子型燃料電池用電解質膜として、放射線グラフト法により高性能で安価な部分フッ素化電解質膜の開発を行ってきた。開発された放射線グラフト膜は、電極-電解質膜界面にバインダーとして塗布するNafion-dispersionとの物性が違うことで、電極-電解質界面の接着性が低下し、発電時に内部抵抗の要因となっていると懸念されている。そこで本研究では膜-電極界面の接着性改善を目的として、バインダーと放射線グラフト膜から成る新規ハイブリッド電解質膜の開発研究を行った。
実験方法
TeflonFEP(フロン工業、膜厚25μm)に窒素気流中室温下において15kGyの電子線照射を行った。その後FEPにスチレンをグラフトさせ、反応後、クロロスルホン酸溶液を用いてスルホン化することでスルホン化FEPを得た。
次に得られたスルホン化FEP (s-FEP)をミキサーミルで粉砕し、それを5%Nafion-dispersionに分散させ熱処理を行うことによってハイブリッド電解質膜FNを得た。ここでFNにおいてs-FEP粒子の添加量を50wt%, 20wt%, 10wt%とし、それぞれFN50w%, FN20w%, FN10w%とする。また、s-FEP及びNafion-dispersionのみで作製したNafion-castと合わせて物性評価を行った。
結果および考察
得られた各PEMのイオン交換容量(IEC)と、AFMで測定した表面粗さRaを評価すると、IECの高いs-FEPをブレンドすることにより、その値はFN50w%(1.2meq/g), FN20w%(1.1meq/g), FN10w%(1.0meq/g), Nafion-cast(0.9meq/g)の順になった。表面粗さRaはFN50w%(319nm), FN20w%(153nm), FN10w%(87nm)となった。これは、添加したs-FEPの粒径が22μmとNafion粒子に比べて大きいために添加割合を増やすほど表面の凹凸が激しくなったためであると考えられる。それぞれの膜で作成した膜-電極接合体をセル温度60℃で発電させた結果、FNの系に関してはいずれもs-FEPよりも高い出力が得られ、その結果は高い順にFN10w%, FN20w%, FN50w%であった。特にFN10%の膜では、最高出力密度1W/cm2の高出力化に成功した。FNの系でs-FEPよりも高い発電性能が得られた理由は、バインダーと同じ成分を膜に添加したことにより膜-電極間の相溶性が高くなり、生成イオンが拡散しやすくなったためであると考えられる。
しかしながら、s-FEP粒子の添加量を増やすと表面粗さが増大するため、添加量の少ないFN10w%の方がFN50w%よりも接着性が良好であり、FN10w%が最も高い発電性能を示したものと考えられる。