表題番号:2007A-107 日付:2008/04/08
研究課題中国刑事訴訟法における「当事人主義」の課題と展望
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 大学院法務研究科 教授 田口 守一
研究成果概要

(1)  ドイツ・フライブルグのマックス・プランク外国刑法国際刑法研究所には、中国法の専門家、中国からの訪問研究員、中国からの博士課程学生などが滞在しているので、彼らとの日常的な交流から多くの知見を得ることができた。また、2007年10月には、東京において国際シンポジウム「日中刑事法研究会」が開催され、中国から7名の研究者が来日したので、これへの参加を通じて、最新の情報を入手することができた。その概要は以下の通りである。
(2) 中国政府は、2003年10月に、1997年施行の中華人民共和国刑事訴訟法の改正作業を開始したが、これは5カ年計画とされており、2008年には何らかの結論が示される可能性がある。その改革の方向は、中国刑事訴訟法がどこまで当事者主義的原理を採用するかにあると言ってよい。
(3) 刑事訴訟法の改正作業の中で、政府の要請を受けた研究者による改正草案は極めて注目される(陳光中編『中華人民共和国刑事訴訟法――再修改専家建議稿与論証――』2006年、中国法制出版社)。特に当事者主義的に意味があるのは、起訴状一本主義の採用であり、日本刑事訴訟法第256条を模範にした改正案第259条(証拠のリストの提示は許すが、証拠そのものの提出は禁止した)が注目される。「糾問主義から当事者主義へ」の標語も見られ、改革の方向は明白である。起訴事実の変更規定も設けられ(草案第310条)、いわば訴因変更制度に一歩近づいたものとして注目される。
(4) 懸案の黙秘権条項については、研究者の中には条文に明記すべきとの見解も有力であったが、上記草案は被疑者への権利告知規程を設けたが黙秘権についてはいわば間接的な保障に留めている(草案第225条)。もっとも、2008年6月1日から、新弁護士法が施行され、被疑者との秘密交通権が保障されることとなっている。実質的な被疑者の権利保障の中国方式として注目に値する。