表題番号:2007A-106 日付:2008/03/21
研究課題行政法関係における差止請求と公権力概念
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 大学院法務研究科 教授 岡田 正則
研究成果概要
 本研究は、近年の判決等で流布されている国家無答責の法理に関する実定法説(この法理は1890年の諸立法の前提とされているので実定法上の根拠を有するという説)および「行政裁判法と旧民法が公布された明治23年[1890年]の時点で、公権力行使についての国家無答責の法理を採用するという基本的法政策が確立した」という1890年確立テーゼの真偽を検討するために、関係立法の制定経過、戦前の大審院判例の変遷、および学説の推移を検討した。
 結論は次のとおりである。第一に、関係立法における立法者意思、大審院判例の推移、戦前の学説の認識のいずれの面から見ても、国家無答責の法理が1890年の立法措置(行政裁判法16条・裁判所構成法2条および26条・旧民法373条)によって実定法上で確立された法理だということは不可能であること、および、この法理が後年の大審院の判決により形成された判例法理であったこと、は明白である。実定法説が成り立つ余地はない。第二に、同じく戦前の立法・判例・学説のいずれの面からみても、1890年確立テーゼの前提にある認定、すなわち、行政裁判法16条が国に対する損害賠償請求訴訟についての司法裁判所の管轄権を否定したという認定および旧民法373条が「高権的活動に対しては民法に基づく国家責任を否定しようとする立法者意思のあらわれとみることができる」という認定は誤りである。このテーゼは、国家無答責の法理が判例法理として確立されるための制度的基礎を1890年の諸立法が与えた、という限りにおいて妥当性を有する。第三に、国家無答責の法理の適用について、大審院の判決は一貫してはいなかった。「大審院も公務員の違法な公権力の行使に関して、常に国に賠償責任のないことを判示して来た」という認定は誤りである。第四に、国家無答責の法理は、判例法理であるので、国家賠償法附則6項にいう「従前の例」には該当しない。また、その実体的内容は今日の法体系の下ではもはや妥当性を持たないので、現代の裁判所においてこれを適用することは許されない。