表題番号:2007A-093 日付:2009/04/02
研究課題会話による指導が作文過程に及ぼす影響―SILSライティング・センターの事例―
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際教養学術院 客員講師(専任扱い) 佐渡島 紗織
(連携研究者) 国際教養学術院 客員講師(専任扱い) 志村 美加
(連携研究者) 国際教養学術院 助手 太田 裕子
研究成果概要
 本研究の目的は、早稲田大学国際教養学部に設置したライティング・センターにおけるセッションにおいて、会話による指導が書き手の作文過程にどのような影響を及ぼすかを調査・分析することであった。本ライティング・センターは、学部設立と同時に開始され2007年度は4年目に当たる。初年度は持ち込める文章が英語文章に限られていた。しかし2年目より日本語と英語の双方の文章を持ち込めるようにし、セッションで使う言語も予約時に学生が選択できるようにした。こうした特徴的な運営がなされているライティング・センターであるため、「会話による指導」が、実際には書き手の作文過程にどのように影響しているかを分析することは学術的に有効である。特に、セッションで使用された言語とチューターの母語が書き手の作文過程にどのように影響するかを分析した。
 調査・分析は次の方法で行った。①ライティング・センターで勤務するすべてのチューター(合計24人)が、それぞれのセッションを1~2レコーダで録音し、音声データを業者委託により文字化した。③音声データをとったセッションでの書き手の文章と、セッションを受けて書き手が修正した文章を収集した。④チューターは学生(書き手)の文章と文字化原稿とを分析・検討して、自分のセッションの振りを行った。⑤振り返りを、毎週行われているチューター・ミーティングにおいて発表し、他のチューターからのフィードバックを得た。⑥それらのセッションに訪れた学生(書き手)のうちの数人を後にインタビューし、セッションについて聞き取りをした。これらのインタビューも録音をとり文字化した。
 「会話による指導」が作文過程に有効であることは多くの先行研究により明らかにされてきた。この研究結果に加え、本研究では次の点が明らかになった。(1)日本人学習者が英語文章を持ち込んで、日本語母語話者のチューターと日本語で会話を行うセッションでは、概して①発話の数が多くなり、②一つの事柄に関する会話が長く続く。③書き手は悩みを自分から語って助言を求める。④チューターは、一緒に考えるというスタンスから助言をする。(2)日本人学習者が英語文章を持ち込んで、英語ネイティブのチューターと英語で会話を行うセッションでは、概して①発話の数は少なく、②一つの事柄に関する会話が短い。また③書き手が、問題点の指摘をチューターに任せる場面が多く、④チューターは、直接的に指示を与えたり直したりする場面が多い。以上の違いから、本ライティング・センターではセッションの使用言語を書き手が「使い分けできる」ことで、チューターの母語とセッション使用言語が作文過程を規定する大きな要因となっていることが分かった。しかし、「使い分け」をしない学習者にとっては、期待する指導内容と実際の指導成果に食い違いが起きることが予想され、今後のチューター研修で「何をもってセッションが成功したといえるか」についての研修を多角的な視点から行う必要があることが明らかになった。