表題番号:2007A-052 日付:2008/11/17
研究課題ラマン分光法による有機EL素子の温度計測
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 古川 行夫
(連携研究者) 理工学術院 客員講師(専任扱い) 細井宜伸
研究成果概要
ラマンスペクトルでは,ある振動遷移のストークス散乱強度は振動基底状態にある分子数に,アンチストークス散乱強度は振動励起状態にある分子数に比例する.また,振動基底状態と励起状態に存在する分子数は,熱平衡状態ではボルツマン分布に従う.したがって,ストークス散乱とアンチストークス散乱強度比は,温度に依存する.この原理を利用して,ITO/CuPc/NPD/Alq3/LiF-Al構造(デバイスA)とITO/PEDOT-PSS/PF8:F8BT/LiF-Al構造(デバイスB)をもつ有機EL素子の動作時における温度を計測した.デバイスAではCuPcの483 cm-1バンドのストークスとアンチストークス散乱強度比から温度を求めた.181 A/m2の電流でCuPc層の温度が140 ℃であった.熱電対により測定したガラス基板の温度は81℃であり,有機層の温度は基板よいもかなり高いことが明らかとなった.また,デバイスBでは,PEDOTの440 cm-1バンドから温度を求めた.150 mA/cm2の電流密度で動作している場合,PEDOT層の温度は74℃であった.一方,熱電対により測定したガラス基板の温度は41℃であり,このデバイスにおいても有機層の温度はガラス基板よりもかなり高いことが明らかとなった.ガラス基板の厚さに比べ,有機層の厚さは非常に薄いが温度に違いがあることが分かった.ラマン分光法は有機EL素子の有機層の温度を,非破壊,非接触で測定できる方法として有用であることを示した.