表題番号:2007A-044 日付:2009/04/24
研究課題ナノテクノロジー・量子工学における基礎的問題
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 大場 一郎
研究成果概要
本研究では(1)量子化の基礎的問題と(2)量子絡み合い,についての研究を行った。

(1)Nelsonは質量mの粒子が拡散係数h/(2πm),摩擦なしでBrown運動していると仮設して量子的粒子を“古典的”に記述することに成功した.これは1体問題に限定されているが,ここでは相互作用している多体系に一般化することを試みた.一つ一つの粒子が異なる拡散係数でBrown運動をしているとする確率過程を仮定し,新たに“current momentum”と“osmotic momentum”を導入する.その結果,一連のIto-Nelsonの確率微分方程式から相互作用ポテンシャル下の多体シュレーディンガー方程式が導出できることを示した.そこではcurrent momentumとosmotic momentumの一次結合が多体シュレーディンガー振幅の対数微分によって与えられ,さらにそれは量子ハミルトン-ヤコビ理論の演算子型生成母関数と同一である.この枠組みでは多体シュレーディンガー振幅を介して同種粒子のスピン-統計性が論じられ,Youngの二重スリット実験の2粒子相関のシミュレーションを実行し,非自明な相関のあることを示した.

(2)量子力学が古典力学と際立って違っているのは,量子状態の重ね合せにエンタングルメント(絡み合い)があることであり,発展が目覚しい量子工学に利用されている.ここでは液体状核磁気共鳴(MNR)量子コンピュータのエンタングルメント生成について調べた.MNR量子コンピュータで演算は系の熱平衡状態から出発する.その系に量子演算を施して,エンタングルメント状態を用意する.ここではハミルトニアンに実用上必須の化学シフトを持たせ,エンタングルメント生成変換にはベル変換であるCH変換とCH-fanout変換を採用,変換された密度行列の固有値問題を厳密に解いた.エンタングルメント評価法としてPeres-Horodeckiによる部分転置法を用い,エンタングルメント生成可能領域を正確に評価した.さらにDC法の内包するループホールを解析し,DC法の改良を図った.