表題番号:2007A-027 日付:2010/10/12
研究課題視覚的単語認知における形態隣接語の意味活性化と意味的プライミング効果
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 准教授 日野 泰志
研究成果概要
 語を読む時,その語の意味ばかりでなく,その語が持つ形態隣接語(形態類似語)の意味も活性化される可能性が指摘されている。例えば,Bourassa & Besner (1998)は,語彙判断課題を使って,マスク下の非語プライム(e.g., deg)の形態隣接語(e.g., dog)とターゲット(e.g., CAT)との関連性による促進効果を報告している。このように,語を読む時,その語の形態隣接語の意味も活性化されるなら,プライムとターゲットとの間の直接的な関連性ばかりでなく,プライムの形態隣接語とターゲットとの関連性やターゲットの形態隣接語とプライムとの関連性も意味的プライミング効果の大きさを決定する要因である可能性が高い。そこで本研究では,ターゲットの形態隣接語とプライムとの意味的関連性がターゲットに対する語彙判断の成績にどのような効果を生じるのかについて検討した。
 実験では,カタカナ語ターゲット(e.g., ポケット)の形態隣接語(e.g., ロケット)がプライムと関連がある条件(e.g., ミサイル-ポケット)と関連がない条件(e.g., スクール-ポケット)との間でターゲットに対する語彙判断の成績を比較した。さらに,プライムに対するマスクの有無と刺激セットに含まれる関連あり試行の比率(関連性比率)も操作した。その結果,プライムがマスクされた場合には,関連性比率が高い条件においてのみターゲットの形態隣接語とプライムとの関連性による抑制効果が観察された。プライムがマスクされない場合には,関連性比率に関わらず何の効果も観察されなかった。
 この結果から,Bodner & Masson (2001, 2003)が提案するように,マスク下においてもプライムにより活性化された情報がターゲットに対する判断に有効な手掛かりとなる場合には判断に利用されるようである。一方,プライムがマスクされない場合には,プライムとターゲットとの間の関連性がより大きな効果を持つことになり,ターゲットの形態隣接語による効果は観察できなかった可能性がたかい。この実験結果とBourassa & Besner(1998)の結果から,プライムがマスクされた場合には,プライムの形態隣接語やターゲットの形態隣接語も意味的プライミング効果に影響を及ぼしていることが明らかとなった。