表題番号:2007A-011 日付:2009/10/20
研究課題上訴制度(特に控訴制度)と『時間』的価値に関する基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 大学院法務研究科 教授 勅使川原 和彦
研究成果概要
わが国の上訴制度においては、いわゆる迅速化法の影響もあってか、裁判所側からは、「続審制の事後審的運営」という審理方針が研究・提案されている。
ドイツでも2001-2002年の民事訴訟法改正法により、大きく更新権が制限され、「続審制」は日本でも、また母法国ドイツでも
変容を受けようとしている。ドイツでは、控訴審の負担軽減や濫控訴防止を目的に掲げ、時間短縮による真の権利者の「迅速な権利実現」を図ろうとしている。
そこで、ドイツの2001年改正以降の上訴法の動向と、施行後5年を経た改正法の評価を探り、わが国の上訴審運営と「時間」との関係に示唆を得るべく、2001年以降の裁判例・文献に焦点を合わせ、研究を進めた。
事実審としての機能を強調して法律審化への転換を望む立法者の期待に抵抗するドイツの最高裁の裁判例や、連邦法務省の委託を受けて大学教授らが改正法実務についての実態調査をした報告書からは、負担軽減の効果と必要な権利保護手続の維持とのバランス取りに腐心している姿が看得できる。
統計上、ドイツと比較すると濫控訴ともいえないわが国で、なぜ控訴の提起と控訴審の審理対象となる攻撃防御方法を絞り込もうとする動きに抗するなら、控訴審審理で必要な「時間」の理論的根拠を呈示していく必要があり、その基礎となる示唆を得られた。