表題番号:2007A-010 日付:2008/03/23
研究課題モダニズム/エグゾティシズム研究――文学・芸術における〈外〉の思想の系譜
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 谷 昌親
研究成果概要
2007年度は、とりわけミシェル・レリスのアビシニア(エチオピア)体験を検証しなおすことに力を入れた。一般に非ヨーロッパ的な文化に関心を寄せていたシュルレアリストのなかでも、レリスのように民族誌学者となった例は稀だが、そのレリスにとって、1931年から31年にかけてダカール=ジプチ調査団に参加し、アフリカでフィールドワークをおこなったことが重要な契機となっている。なかでも、調査旅行の終盤におこなわれたアビシニアでの体験が彼にとっては貴重であったはずで、一方では民族学に対してアンビバレントな思いを抱かせることになったこのフィールドワークやそれにまつわる出来事と彼のその後の著作活動の関係を調べ、「カパを手にした闘牛士」という論文にまとめた。
 一方、レリスの年長の友人であり、彼に多大な影響を与えたレーモン・ルーセルについては、その最後の著作『新アフリカの印象』の翻訳を試みつつ、彼の旅行体験との関係や、この著作な複雑な構造の分析を進めているところである。
 また、ブルトンに影響をあたえたジャック・ヴァシェ、ブルトンとはやや異なるポジションでシュルレアリスムに参加していたロベール・デスノスについても資料の読み込みをおこなっているところであり、いずれ研究成果としてまとめる予定である。
 シュルレアリスムに関しては、この運動をモダニズム/エキゾティシズムの文脈において考える場合、写真やオブジェの関係が重要だと考えているが、特に写真との関係を調べ、フランスで刊行された論文 集のために"Du surrealisme et ses rapports avec la photographie"としてまとめた。写真は、対象を客体化させるだけに、シュルレアリスム固有の方法であった自動記述に結びつく側面があり、そうした観点からシュルレアリスムと写真を見直す試みである。
 このシュルレアリスムの写真体験に象徴的だが、20世紀に独得の発展を遂げた視覚芸術において、無意識や身体性の問題が重要であると考えており、このテーマについても研究を継続中である。