表題番号:2007A-007 日付:2008/03/03
研究課題メキシコにおける先住民権と先住民運動
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 山﨑 眞次
研究成果概要
 第2次世界大戦後、相次ぎ新興独立国家が誕生するなか、新しい国際秩序形成過程において国家とエスニック集団の対立抗争はさらに頻発・激化し、国際連合はそれらの紛争解決に追われるとともに、エスニック集団の権利関係を国際法的に定義する必要に迫られた。国連の総会では、国家内の少数民族の存在を認め、彼らに自決権の使用を認めようとする積極的動きもあったが、結局、主権国家が難色を示し、エスニック集団の文化的独自性は認めるものの、彼らに自決権や集団権を付与するまでには至っていない。つまり、主権国家から構成される国連は「民族」の定義をしておらず、国家内外に居住するエスニック・マイノリティ集団の言語、宗教、習慣、歴史、神話等は認めるが、広義の政治的自治権は容認しないというのがその見解である。
 本研究では、メキシコに太古から居住し、現在も全人口のおよそ10%を占める1000万人強の人口を誇る先住民集団について、コミュニタリアンの見地から考察した。その際、先住民の権利に関して世界で最も進歩的理念を掲げ、法制度を整備・確立し、多文化主義を国策に掲げるカナダの研究者の考え方を参考に論考を進めた。カナダの積極的先住民保護と比較して、メキシコの連邦政府と州政府が先住民保護に法的にどのように対応しているかを検証した。そして次回の論文2では、メキシコのオアハカ州で先史から共同体生活を営む先住民ソケ族の生き方を介してメキシコの先住民が抱える貧困、土地問題、森林保護と開発について検証する。
 効率的利益至上主義が闊歩する現代において、経済的効率性は低いが、協働と融和に基づく集団的合議を通して、共同体の成員の善を図る先住民の生き方は、21世紀が抱えるエスニック問題を解決するためにわれわれにひとつの視座を提供してくれるかもしれない。