表題番号:2007A-001 日付:2008/03/23
研究課題ドイツ連邦主義の再構築―間接連邦行政システム改革の基礎研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 縣 公一郎
研究成果概要
ドイツにおいて、1970年代以降進展してきた協調的連邦主義の傾向は、2006年における連邦主義改革を通じて或る程度修正された。従来の協調的連邦主義では、各州の自主性を尊重しながら、連邦の要綱法制定権や共同任務といった制度を通じて、連邦権限の強化を図り、行政ニーズにおけるミニマムの確保に主眼が置かれてきた。他方、今般の改革では、国内的ミニマムが達成されたとの認識に立って、むしろ各州間の多様性を拡充するために、連邦権限の縮小が図られ、協調的連邦主義への修正が加えられた。
 具体的には、まず、連邦と各州間の競合立法権の範囲内で、連邦が各州の立法を促し統一的モデルを提示するための制度であった要綱法制定権(基本第75条)が廃止され、連邦と各州間の立法権の区分がより明確となった。また、連邦と各州が共同で任務計画を策定し、財政的にも協力する共同任務(基本法第91a条)のうち、大学建設から連邦が撤退した。更に、従来からの制度である連邦と各州間の競合立法権に、新たな3区分が設定された(基本法第72条)。その第一は、連邦の条件付競合立法権で、連邦内の同一生活水準実現、ないし全体利益のための法・経済統一性確保という条件が満たされる場合のみ、連邦が競合立法権を行使し得る場合で、経済法等10項目が列挙されている。その第二は、無条件競合立法権で、上記の条件を考慮することなく連邦が競合立法権を行使する場合で、民法や刑法等26項目の具体例がある。最後に、この無条件競合立法権の範囲内で、各州が独自の判断で連邦法から乖離した州法を制定しうる乖離立法権があり、大学制度等6項目がある。
 このように、各州の自立性を基調とする連邦制度の中で、連邦がむしろ積極的に行動することによって国内のミニマムを確保しようとしていた時代から、21世紀に入って、連邦と各州の権限を明確に規定し直して、連邦が統一的に規律する領域と、各州が自立的に規律することで各州間の多様性が拡充される領域との区分が明確となる時代に移行した。これは、大きな背景として、少なくとも経済的側面におけるドイツ社会の成熟が作用しているだろう。