表題番号:2006B-281 日付:2008/11/20
研究課題現代憲法の動態の研究-憲法規範と現実の相剋と発展の理論的・実践的・比較憲法的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 大学院法務研究科 教授 戸波 江二
研究成果概要
グローバリゼーションの進展は、憲法学に対しても新たな問題を突きつけてきている。従来の憲法学は、主権国家の領域内で、国内の政治と人権保障について検討していれば、基本的にはそれで十分であった。しかし、グローバリゼーションによって、他国との国際政治における協力、国際紛争の処理、地域的な政治・経済の結合とその制度構築・維持の方法について考えなければならなくなってきている。また、国内においても、外国人の人権とその規制のあり方、通信・放送手段の発達に見合った情報流通の確保、テロ対策や麻薬等の国際犯罪のための協力、などが求められており、ひいては日本の政治・社会の基本的な仕組みの見直しが要請されている。それにもかかわらず、日本の政治の現況では、小泉首相の靖国参拝に典型的にみられるナショナリズムを強める行動がとられ、アジア諸国との間で無用の軋轢を生み出している。日本の経済はグローバリゼーションに敏感に即応してきているが、憲法政治の分野ではグローバリゼーションや国際化への対応は必ずしも迅速ではなく、むしろ、伝統的な国家意識が有力に維持されているのが実情である。
本特定課題研究は、グローバリゼーションの進展の下で生ずる諸問題について、憲法学の観点から研究を行った。研究者戸波は、グローバリゼーションの下での日本の対応について、さまざまな角度から批判的に考察した。とりわけ、東アジア諸国のシンポジウムで報告する機会があり、そこでは日本の政治がグローバリゼーションの流れに背反するものとなっていることを指摘した。
また、本特定課題研究は、ドイツ憲法判例研究会のドイツ憲法との比較研究と関連しているが、ドイツ憲法判例研究会は2007年度もドイツ最新憲法判例研究を重ねるとともに、ドイツ・フライブルク大学ライナー・ヴァール教授を中心とするドイツ研究者グループと共同研究を実施する。これは、2006年9月に、本特定課題研究の構想を下に、ドイツ憲法判例研究会の会員を組織して、日本学術振興会二国間研究協力プログラムに応募した結果、それが採択されたため、2007年4月~2009年3月の2年間、日独の共同研究を実施することになったものである。なお、この日独共同研究の実施に関連して、ドイツ側代表者ライナー・ヴァール氏が2007年3月に来日した際に、慶応義塾大学にて「憲法の優位」のテーマでミニ・シンポジウムを開催したほか、3月19日、「基本権の客観的次元について」というテーマで講演会を開催した