表題番号:2006B-249 日付:2007/03/07
研究課題語用論的概念の統語論への統合:ポライトネスの形式化を中心に
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際教養学術院 教授 益子 真由美
研究成果概要
 短期間であったので,従来のポライトネス研究では見過ごされがちだった形式化の可能性を中心に考察した。特に所謂敬語表現のうち複合述語に着目し,近代までは問題なく使用されていた表現(例 田中先生は佐藤先生のご著書をご拝読なさった)が何故現在の日本語母語話者には奇妙に感じられるのかといった問題について考察を行った。こういった事象については,封建的な身分制度の衰退とともに,日本語の敬語体系が絶対敬語から相対敬語へ移行したことが関係しているのではないかと従来から指摘されている。それに加えて,他の複合述語の持つ問題(例 使役と受身・使役と「尊敬」)を同時に考えると,視点やempathyという名前で知られている語用論的要素が関係しているのではないかと思われる。相対敬語への移行とともに,日本語の複合述語では意味の単純化が起こり,単一視点からの事象報告が優先的に使用されると考えると,これらの構文の受容可能性の違いが説明可能となる。更に,「--させて頂く」という関西方言から派生し,広く使われるようになってきている表現が,関東の人間の多くには奇妙に聞こえる理由も説明出来る。先行研究により日本語には視点によって受容可能性のみならず文法性が決定されることがよく知られているが,従来指摘されてきた表現以外にも,そういった現象が多く見られる可能性が見えて来た。