表題番号:2006B-245 日付:2007/02/16
研究課題ドイツ語の「語中の大文字I」についての研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際教養学術院 教授 岡村 三郎
研究成果概要
ドイツ語には周知のようにGenus(文法性)がある。Genusは文法的な範疇であって、Sexusとは原則的に関係ないが、人を示す名詞においては、従来から、男性名詞がSexusの「男性」に女性名詞が「女性」に対応する場合が多い。しかし実際の言語使用では「総称男性名詞」が男性と女性の両性を指す名詞として一般的に使われてきた。
これに対しドイツのフェミニズム言語学は総称男性名詞を攻撃し、「女性がはっきりと言及されること」、そして「女性が男性と対等に言及されること」を要求した。これによればこれまでder Professorですませていたところを、男性名詞と女性名詞を併記して(並列形)、例えばdie Professorin oder der Professorなどといわねばならない。しかし並列形は、文が長くなる、その都度男性名詞と女性名詞両者への指示が必要で煩雑である等の弱点もある。それを補うものとして「語中の大文字I」(例えばProfessorInnen)の使用が考案され、「進歩的」とされる新聞や雑誌でも使われるようになっており、本研究ではこの語中の大文字Iの使用に焦点をあてている。
語中の大文字Iは80年代にスイスの週刊紙 WOZ (Die Wochenzeitung)で考案されその後、全ドイツ語圏に広まったとされる。これまで文献により、この語中の大文字Iの基礎となったフェミニズム側からの理念とともに、簡潔で容易な言語使用を保証するという必要性がいかに議論されたか、どのように共通の認識に到達し、実際に使用されるようになったか、そしてそれが一般にはいかに受けとめられているかを検証してきた。2007年3月にはこの週刊紙 WOZのアーカイブによる現地調査を行い、大文字Iの導入当初まで遡り、使用についてのフェミニズム側からの論議を克明に追い、さらにWOZにおける実際の言語使用を80年代から現在まで実際の記事および広告によって確かめ、それにより「性差別のない言語使用」という理念とともに、簡潔で容易な言語使用を保証するという要請がどのように実現されたかを確認し、それを論文にまとめる予定である。
なお同じく一般にはフェミニズムの要請によって公には使われなくなったと考えられている語Fraeulein(英語のMissに相当する)についても研究を進め、南ドイツ新聞(Sueddeutsche Zeitung)のDVD(1994-2005)アーカイブを利用し、使用の変化を跡づけ、使用の重点が戸籍上の身分を示す「未婚」から、むしろ女性の若さ、新鮮さそしてダイナミズムを示す語に変わったことを指摘した。