表題番号:2006B-218 日付:2007/03/27
研究課題生体情報を教師信号としたモデル学習による感情推定技術の高度化
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 助教授 菊池 英明
研究成果概要
 本研究では、音声からの心的状態の推定において話者の心的状況をより高い精度で推定するため、生体情報を教師信号としたモデル学習を行う“生理心理学的アプローチの導入”を提案する。
 従来の感情推定は、モデル学習の際に実験者の判断による評定結果が教師信号として用いられるため主観的方法であることが否めない。また推定の対象も基本的な感情にのみ重点が置かれてきた。
 生体情報は、意図的な操作が入らず継時的な変化を捉えられることができるとされている。そのため、推定を行う際に実験の第一段階として生体信号を利用することで、多様で連続的な心情の変化を対象とすることができるようになり、またより客観的で精度の高い判断が可能になると思われる。

 難度の異なる音読課題を2つ用意し、課題間における生体信号の反応の違いが音声の違いにも現れるのかを観察した。実験者の主観的評価によってストレス状態と判断された被験者の音声と、それらのうち生体信号の変化からもストレス状態にあると判断できた被験者の音声の比較を行う。
 生体信号には、心的状態の推定へ利用できると思われた容積脈派(BVP)、心電図(EKG)、皮膚温(TEMP)、皮膚コンダクタンス(SC)を用いた。
 音声の比較には、各音声からF0とパワーそれぞれの最大値、最小値、振幅、平均値、それに発話速度を加えた9つの特徴量を抽出し、これらを決定木学習に利用した。決定木学習には、C4.5アルゴリズムを使用し、交差検定を用いて評価を行う。
 全データ(実験者の主観的評価のみによってストレス状態を判断した)で学習モデルを生成した場合平均63.9%であった判別率が、選別データ(主観的評価に加え、生体信号の変化からもストレス状態を判断した)で学習モデルを生成した場合には平均77.8%まで精度が向上した。

 生体信号がストレス状態を判断するうえで一つの指標となり得ることを示唆する結果となった。本実験の結果、音声からの心的状態の推定を行う際に生体情報を利用することの有益性が実証された。