表題番号:2006B-192 日付:2009/11/16
研究課題長期間気球観測による高エネルギー電子加速源の探索
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 鳥居 祥二
(連携研究者) 理工学術院 客員講師(専任扱い) 清水 雄輝
研究成果概要
この研究では、将来の国際宇宙ステーションでの観測を目的とした観測装置(CALET)のために開発されている先進的技術を用いて、プロトタイプとなる装置を製作し、長期間気球実験により10GeV~数TeVの電子と20MeV以上のガンマ線の観測を実施するための装置基礎開発を行っている。観測装置は、電子、ガンマ線を陽子などのほかの宇宙線成分から選別するため、イメージングカロリメータ(IMC)と全吸収型カロリメータ(TASC) から構成されている。IMCは1.05 r.l厚(0.15 r.l.×7層)の鉛を吸収層として用い、4096本(256chx16層)のシンチファイバー(1mm角)で 電子、ガンマ線のシャワー発生点を検出し、粒子の入射位置と方向を測定し入射粒子の電荷量を測定する。10 GeV以下のガンマ線については、装置上面と側面を覆うプラスチック・シンチレータを用いた、荷電粒子除去(アンチ)用システムにより、陽子雑音を機上で除去する。TASCは、断面が2.5cm角で長さ25cmのBGOのLOGを、10本を一層としてX,Y交互に4層重ねた構造で、厚さは8.9 r.l.である。エネルギーを測定するとともに、シャワーの横拡がりと一次元的発達の情報から、IMCにおけるシャワー可視化技術との併用により、オフライン解析で陽子を除去する。シャワーのトリガーは、3層のプラスチック・シンチレータのコインシデンスによって行う。このシステムでは、シャワー発達の様子に応じたディスクリレベルの設定により、機上で陽子雑音を1/10程度に落とすことが可能である。
 気球搭載装置では、特に軽量化と省電力化が要求されるため、装置の基幹部分であるIMCにおけるシンチファイバー読み出し用回路システムについて、アナログASICを用いた前置増幅回路の性能試験と改良を行った。さらに、これらのシステムを欧州共同原子核研究所(CERN)での電子、陽子ビームにより性能試験を実施した。このビームテストの結果、シンチファイバーによる高エネルギー電磁シャワーの可視化が、1kHzのデータ取得スピードが実現できることが判明している。そして、気球観測では不可欠なトリガー機能について、FPGAを用いたフレキシブルな開発が可能であることも実証できている。データ解析はまだ進行中であるが、別途実施した気球観測のデータと合わせて、電子、ガンマ線のエネルギースペクトルの導出により、高エネルギー宇宙電子の加速源についての研究を実施する。