表題番号:2006B-190 日付:2007/03/17
研究課題大規模分子動力学法によるナノスケールシリコン構造体中の不純物分布解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 助教授 渡邉 孝信
研究成果概要
 本研究では、独自の大規模分子動力学シミュレーション技術により、酸化膜で覆われたナノスケールシリコン構造体を計算機上で再現し、SiO2膜の歪み分布を調査した。Si(001)基板モデルを加工して矩形断面をもつシリコン細線構造を作製し、表面から一様に酸化膜部を形成したところ、細線上面よりも側面にストレスが集中すること、残されたSi細線は側面から圧縮ストレスを受け、格子間隔が基板法線方向に伸びていることが明らかとなった。
 続いて、この酸化膜モデルの中を拡散するO2分子の界面への到達確率が、界面付近の歪分布に応じてどのように変化するかを予測するプログラムの開発に取り組んだ。界面へのO2分子の到達確率を見積もることで、単位時間あたりの酸化膜の成長膜厚を予測でき、ひいては、シリコンナノ構造体の複雑な酸化膜成長を予測することができる。O2分子は、酸化膜中の格子間サイトに存在し、熱的な励起により隣接するサイト間をジャンプして移動する。そこで、ある格子間サイトを起点とする拡散経路の候補を計算機シミュレーションで探索したところ、酸化膜部の歪に応じて、拡散経路上のエネルギー障壁が大きく変化することを確認した。
 また、昨年度に発見した、シリコンの熱酸化を支配する新しいメカニズムについても更に研究を進めた。Siの熱酸化速度理論は、1965年に発表されたDeal-Grove理論がこれまで正当とされてきたが、最近の研究により、初期酸化を界面反応律速過程とみなすDeal-Grove理論を見直す必要が生じてきた。そこで昨年度、拡散律速過程のみで構成される新しい速度方程式を定式化したが、これは乾燥酸素雰囲気中での酸化現象には当てはまるが、水蒸気雰囲気での酸化では、Deal-Grove理論が依然として成立している可能性があることが新たにわかった。そこで、両方程式を統一する拡張版の速度方程式を定式化した。この式の1つの極限が従来のDeal-Grove理論と一致し、もう1つの極限が、昨年我々が定式化した式に一致する。これにより、従来理論と新理論の関係が明らかとなり、適用する系に応じてどのように両理論を使い分けるべきかを明確に示すことができた。