表題番号:2006B-158 日付:2007/03/25
研究課題光応答性ガスキャリア液循環型酸素濃縮器の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 講師 小堀 深
研究成果概要
【緒言】酸素療法とは、呼吸器系疾患の患者に高濃度酸素を吸入させる治療法である。この治療法に用いられる酸素供給源として、空気中の酸素を濃縮する膜型や吸着型の酸素濃縮器が広く用いられている。しかしこれらは、高濃度の酸素を高流量で供給することができない。そこで本研究では、遮光時に酸素と結合し、光照射により酸素を解離する光応答性酸素運搬体であるピケットフェンス型コバルトポルフィリン(α,α,α,α-Co (TpivPP))を用いて、光に応答して酸素を濃縮する新規酸素濃縮器の開発を行った。
【方法】α,α,α,α-Co (TpivPP)を合成するため、まずCollmanの方法に従い、H2TpivPPを作製した。その後G.D. Doroughの方法に従い、中心金属のコバルトを導入することでα,α,α,α-Co(TpivPP)を合成した。その合成物を紫外可視吸収(UV-vis)スペクトルおよびマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-TOFMS)により同定した。また、これまで人工鰓システムの溶媒として用いられてきた毒性の高いo-xyleneに代わるものとして、シリコーンオイル(SIGMA, St. Louis, MO)、エタノール(Wako, 東京)を検討した。これらの酸素移動性能を評価するため総括物質移動係数および錯体溶解度を測定した。また、膜には酸素透過性の大きな膜として人工肺モジュールなどで使用されている多孔質ポリプロピレン膜(pp膜)を用い、酸素透過性を評価するため、Wilson Plot法により膜抵抗を測定した。Co (TpivPP)を溶解させて作製したガスキャリア液を空気存在下で5時間以上撹拌し、大気飽和させた後に光を照射し、解離酸素による溶存酸素分圧の変化を測定した。
【結果および考察】α,α,α,α-H2TpivPPの合成をUV-visスペクトルのポルフィリン環特有の吸収波長により確認した。またMALDI-TOFMS測定結果より得られた分子量も一致した。続く中心金属のコバルト導入は、UV-visスペクトルにおけるポルフィリン環特有の吸収波長が消滅していることにより確認できた。各溶媒の総括物質移動係数を算出した結果、値はシリコーンオイル>エタノール>純水の順になった。また錯体溶解度は、エタノール>シリコーンオイル>純水の順となった。またWilson Plot法による膜抵抗の算出結果から、シリコーンオイルを接触させた場合においても切片の値がほぼ0となり、シリコーンオイルを用いた場合にもpp膜が高い性能を示すことが分かった。次に、光照射によるガスキャリア液の酸素分圧経時変化を測定した。Co(TpivPP) (O2) に光照射することにより、大気中の酸素分圧より40 mmHg高い酸素濃度の空気を供給できることがわかった。従って、光刺激応答性ガスキャリア液に光照射することで、大気中の酸素を約190 mmHgまで濃縮可能であった。
【結言】CoTpivPPをシリコーンオイルに溶解させたガスキャリア液を酸素飽和させ、その後、光を照射したところ、約40 mmHgの酸素分圧変化が得られた。このガスキャリア液は酸素濃縮器への応用が可能である。