表題番号:2006B-127 日付:2007/04/17
研究課題多様な天然生理活性物質の全合成と活性発現ユニットの解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 竜田 邦明
研究成果概要
神経再生作用を有する天然物ビナキサンソンの全合成

ビナキサンソンは1991年に日本ロッシュの研究グループにより、Penicillium vinaceumの培養液より単離・構造決定された天然生理活性物質である。近年、大日本住友製薬のグループにより神経再生作用を有することが報告されており、脊髄損傷などに対する神経再生医薬品としての可能性が期待されている。本研究において、生合成過程を考慮した分子間Diels-Alder反応を鍵反応とするビナキサンソンの初の全合成を達成したので以下に概要を述べる。
出発原料として入手容易なバニリンより4工程を経て臭化フェノール体を得た。臭化フェノール体をアクリロニトリルに対してMichael付加させ、ニトリル体を得た。これに対しFriedel-Crafts型反応を行い、位置選択的に環化反応を進行させ、目的とする環化体を得た。続いて環化体のカルボニル基を保護したのち、ハロゲン金属交換反応によりメチルエステル基を導入後、保護基を除去し、メチルエステル体へと導いた。メチルエステル体に対してアルファ位のヨウ素化を行った後、Heck反応を用いてビニルメチルケトンを導入し、鍵中間体へと導いた。次にこれに対して、ジ-tert-ブチルメチルフェノール存在下トルエンを溶媒として用い、封管中200℃で加熱することにより付加反応に続く芳香化反応を一挙に進行させ、ビナキサンソン前駆体を得た。このビナキサンソン前駆体に対して塩化アルミニウムを作用させてメチル基を除去した。得られた化合物はあらゆる性状において天然物と完全に一致したので、ビナキサンソンの初の全合成を完成し構造も確証した。
本合成法はビナキサンソンの類縁体の合成にも応用可能であるので、今後、さらに体内動態の優れた化合物の合成を行う予定である。