表題番号:2006B-123 日付:2008/06/04
研究課題層状タングステン酸・層状モリブデン酸のインターカレーション化学
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 菅原 義之
研究成果概要
H2WO4は、ReO3型の層状化合物であり、八面体頂点酸素の一つが水分子として存在していることが報告されている。この物質にピリジン、あるいはビピリジンを150°Cで反応させると、WO6八面体中の水分子とピリジンあるいはビピリジン中の窒素分子が置換し、WO6-ピリジン(ビピリジン)層間化合物が得られることが報告されている[1]。一方、H2W2O9は、Aurivillius 相Bi2W2O9の酸処理により得られる2層のH型層状ペロブスカイトとして知られており、H2WO4同様八面体頂点酸素の一つが水分子として存在すると考えられる。そこで本研究ではタングステン酸化物、H2WO4、H2W2O7·xH2Oとピリジン水溶液(ピリジンと水の体積比1:1)を反応させ、その反応条件や生成機構について調査した。
 XRDより、反応後いずれの出発物質から始めた試料も、既報[1]のXRDと同様の回折線が得られたことから3)、層状構造を有していること示された。IR分析より、ピリジニウムイオンの吸収帯が見られなかったことから、ハイブリッド中のピリジンはイオンとして存在していないことがわかった。また15N-CP/MAS NMR分析より、ピリジン分子中の窒素原子の化学シフトはニトロメタン基準で -113 ppmとなった。この値はルイス酸点に結合したピリジンの窒素原子のケミカルシフトに非常に近いことから、窒素原子がタングステン原子に直接配位し、W-N結合を形成していることが示唆された。また、TG分析より、26%の質量減少が見られたことから、組成は、WO3C5H5Nであると考えられる。また、SEM観察より、反応後の試料はいずれも反応前に比べ粒径が大きく、正方形の粒子になっていることから、溶解-再析出により反応が進行したと考えられる。
1) J. W. Johnson et al, J. Am. Chem. Soc,. 103, 5246 (1981).