表題番号:2006B-119 日付:2007/03/24
研究課題土木デザインにおける公共性と事業プロセスのブレイクスルーに関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 佐々木 葉
研究成果概要
景観法の施行などにより全国的に景観への関心は高まっており、土木構造物の整備においてもそのデザイン的質への要求は高くなっている。しかし、人口減少や財政難といった社会状況のもとで、公共事業を取り巻く環境はきわめて厳しく、その実現は容易ではない。そうした状況のなかで、独自の創意工夫によって興味深い試みとして、地方都市や人口の少ない集落などで、地域住民の日常生活を支える道に代表されるインフラストラクチュアの整備を住民自らが施工の一部を担いながら行うというセルフビルドの動きがある。本研究ではそうした事例を全国において調査し、その特色と課題を把握した。
事例調査の結果、整備のプロセスや手法は地域ごとに多様であるが、その効果においては主にコストをかけずに必要な機能を充足するという実質的な整備と、関係する住民間のコミュニティ形成という二つの側面が見られた。どちらの側面が重視されているかは、対象とする道の種別や自治体の規模によって相違が見られた。また、実現した空間のデザインについては、洗練性や斬新性は見られないが、規格にこだわらない柔軟な設計と施工によって生み出される場所へのきめ細かい対応(樹木の保存や水路への階段、路肩のおさまりなど)が見られた。その反面維持管理が継続されていない場合などでは、路面の傷みなどの課題が見られる例もあった。
以上のように事例調査から、セルフビルドの道づくりは、場所ごとに多様なあり方として存在している。またそれらには、地方自治の概念に照らしつつ、責任の所在と合意形成という面からどのように評価していくか、またデザインを含めた整備された空間や構造物の質の担保を如何になしえるか、といった課題があることが明確になった。また市町村合併によってこれまできめ細かく対応されてきたセルフビルドの手法が継続しづらくなっているという課題も各地で見られた。