表題番号:2006B-103 日付:2007/03/26
研究課題臨床医学に直接貢献する,外科技術の"匠さ"の定量評価
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 梅津 光生
研究成果概要
外科手術手技は“匠の技”とされ,外科医の長期間に及ぶ訓練・経験による培われるものである.近年,目覚しい進歩を遂げている医療ロボティクス技術の更なる発展のためには手術の熟練,すなわち“匠さ”の本質的理解が求められる.本課題では,心臓血管外科領域において一般的な冠動脈バイパス手術における血管吻合手技を研究対象とし,種々の定量評価手法に関する基礎的検討を行った.具体的には次のようなアプローチを採択した.
(1) 実体モデルの設計・製作(冠動脈:左前下行枝,グラフト:左内胸動脈)
(2) 術野環境を再現する胸腔シミュレータの設計・製作(胸部正中切開下におけるon-beatモデル)
(3) 熟練医,及び未習熟医による血管吻合手技の高速度カメラによる撮影,観察.
心臓外科医の手術手技データを取得するためには,被験者である医師に対して極度な違和感を与えない程度の術野環境の重要であると考えた.製作された血管モデル(冠動脈,グラフト)は①ヒトと同様の内膜・中膜・外膜による三層構造を有しており,さらには②手技による局所的な負荷により裂開する機械的な脆弱性を付与した.術野環境の再現においては,①外科器械への拘束条件となる開胸面積,②術野深度,③心拍動,④心臓の解剖に基づいた冠動脈モデルの配置を再現した心拍動シミュレータを新たに設計・製作した.これにより心臓外科医に対して違和感を与えることなくin vitroで血管吻合手技が行える環境を整えることができたと言える.本装置を用い,心臓血管外科学会において複数の心臓外科医の血管吻合手技の高速度カメラによる観察を行ったところ,熟練医と未習熟医の差異として,心拍動への柔軟な追従性が異なることが示唆された.高速度カメラによる動画像は画像解析手法により定量的取り扱いが可能であり本アプローチが有効であることが伺えた.