表題番号:2006B-102 日付:2007/03/26
研究課題臨床医学に直接貢献する機械式血液循環シミュレータの開発と応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 梅津 光生
研究成果概要
 脳動脈瘤は破裂するとクモ膜下出血を起こし,そのうち約50%が死亡する危険な血管病変である.従って,脳動脈瘤の破裂やそれに伴う治療について工学的支援に基づく定量的な予測法の確立が期待されている.従来より瘤内流れは破裂に密接に関係する一つの影響因子として考えられてきた.しかし,血管形状の多様性により,破裂する瘤の流れの特性は解明されていない.よって,瘤内の流れを忠実に再現し,流れの特性を系統化することは重要であると考えられる.そこで本研究では,実際の患者の脳動脈瘤の形状と弾性を模擬したモデルを製作した.血流を忠実に再現することで瘤内の流れの特性を理解することを目的とした.
 まず,患者の脳動脈瘤の三次元血管造影データからロストワックス法を駆使しシリコーン製の実形状弾性脳動脈瘤モデルを製作した.その力学的特性は単位体積当りのコンプライアンスで評価され,±15%の再現性を持ち,ヒト脳動脈と同等の特性を再現した.また,ヒト内頸動脈の最大流量,平均流量,圧力を模擬した拍動型脳循環シミュレータを製作した.そして,脳動脈瘤内の流れの構造を計測するため,Dynamic PIV可視化実験を行なった.
 時系列速度ベクトル解析を多断面で行った結果,瘤付け根のネック部において流入と流出の立体交差が観察された.流出の流れが流入の流れの下に潜り込み,流入の流れの有効断面積が縮小することで加速され,局所的に最大流速が85.1cm/sまで達する領域が存在した.このことから収縮期には流入部血管壁に4Pa程度の壁面せん断応力が加わっていることが示唆された.流入の流れは瘤先端部では常に位置が変動する小さな渦に変化し,不安定な流れとなっていた.このことから,瘤先端部の壁面には周期的な変動ストレスが加わっている可能性が示唆された.
本研究より,脳動脈瘤の破裂や治療予後の予測評価のための流れの特性を系統化することが可能となった.