表題番号:2006B-097 日付:2007/03/23
研究課題階層構築による新しい生理機能の創製
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 石渡 信一
研究成果概要
我々は長年にわたって「生体運動系の構造と機能に関する階層性」に着目し、1分子(ミオシン、キネシンなどの生体分子モーター)レベルから分子集合体(アクチンフィラメントや微小管などの細胞骨格)、高次構造(横紋筋原線維など)そして細胞(培養心筋細胞、HeLa細胞、培養神経細胞など)レベルに至る「生体運動系」を研究対象として取り上げ、階層に固有の構造と機能の解明を目指してきた。本研究課題では、とくに横紋筋(筋節が直列に繋がった筋線維)の単一筋原線維(または少数の筋原線維の束)にみられる自励振動現象に着目し、その分子メカニズムを解明するための顕微計測実験を行った。その結果、自励振動が生じる前駆状態(1 mMATP存在、Ca2+非存在という弛緩条件下に、4-20 mMという高濃度のADPを添加することによって活性化された状態で、自励振動は起こりにくい。しかし無機リン酸Piを添加すると、安定な振動がみられる)では、働きうるミオシン分子モーターの数(一言でいえば筋節長)と発生張力とが比例しないという著しい性質を発見した。ところが1% Dextranの添加で浸透圧を上げて筋原線維の幅を狭めると(フィラメント間隔を1 nm狭めることに対応)、このような著しい性質が抑制された。この結果を、Ishiwata & Oosawaのモデル(1974年)に基づいて解析した。その中で、ミオシン頭部の出っ張り長さがADP濃度に従って大きくなることと、筋節長とともにフィラメント間隔が狭まること(筋収縮系の体積が一定に保たれること)の2つを仮定したところ、得られた結果を定量的に再現することができた。このことは、ミオシンADP結合頭部の活性化機能が1 nm程度の僅かなフィラメント間隔に敏感に依存することを示したものであり、筋収縮の制御機構に関して新しい知見を与えたものである。この成果は専門誌に投稿予定である。