表題番号:2006B-093 日付:2007/03/24
研究課題株式新規公開におけるコーポレートガバナンスの役割
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 助教授 蟻川 靖浩
研究成果概要
本研究の目的は、日本の新興市場におけるアンダープライシングの問題に対するベンチャーキャピタルや大株主、さらには主幹事証券会社の与える影響について、実証的な検証を行うことである。ここでアンダープライシングとは、IPO時点での初値に対して公開価格が低く設定されることを指す。用いるサンプルは、JASDAQ市場に2000年から2004年までに上場した企業である。
 
本研究は現時点でまだ進行中であり最終的な結論を述べる段階ではないが、現時点で「暫定的に」得られた結果は以下の通りである。主な結果として、アメリカの研究とは対照的に日本の場合には、ベンチャーキャピタルによるCertifiction 効果が確認されなかった点があげられる。アメリカのデータを用いた先行研究では、ベンチャーキャピタルの関与の程度が高い企業のIPOほど、アンダープライシングの程度が小さいことが報告されている。そしてこのことから、ベンチャーキャピタルの存在が、IPOを実施する企業と市場との間の情報の非対称性の問題の解消に一定の役割を果たしているとの主張がなされている。しかし、日本企業のデータを用いた本研究では、内生性の問題など技術的な問題を考慮して推計を行っても、同様の結果は基本的には確認できなかった。これは、日本のベンチャーキャピタルがアメリカに比べて、いわゆるハンズオン型の投資を行っていない点と整合的である。すなわち、ハンズオフしか行わないベンチャーキャピタルによる投資の場合、経営陣への影響力は弱く、結果として、その投資行動が市場に対して投資先企業の質に関する有力な情報を与える可能性は低いと考えられるのである。

日本の場合には相対的に、ベンチャーキャピタル間の異質性の程度が高いことが特徴であるため、この点を考慮した分析も行った。日本では、銀行や生保、損保の子会社として経営されているベンチャーキャピタルが一定割合を占める一方で、上場している独立系のベンチャーキャピタルも存在している。そこで、こうした出資元の違いが異なる効果を与えるのか、という点についても分析を行った。しかし、いずれの形態のベンチャーキャピタルであっても、先に述べたように基本的には、アンダープライシング問題の解消という点で効果を持つとの結果は得られなかった。ただし、最も規模の大きいグループに分類されるベンチャーキャピタルの出資比率が高い場合に限っては、アメリカと同様にアンダープライシングの問題を緩和しているとの実証結果も同時に得られており、この点について、その要因が何かということを明らかにすべく、継続して研究を進めている。