表題番号:2006B-092 日付:2007/03/15
研究課題退任後の社長のキャリアとインセンティブ:経営者のキャリア・コンサーンの実証分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 助教授 久保 克行
研究成果概要
日本の経営者が、退任後にどのようなキャリアを経ることになるのかを調査した。また、あわせて社長在任時の企業業績と退任後のキャリアの関係を実証的に分析した。さらに、日本の経営者の退任後に大きな意味を持つと思われる勲章制度と、社長在任時の企業の特性との関係を実証的に分析した。
経営者は企業の様々な意思決定を行っており、その決定は、従業員、取引先、株主などに大きな影響を与える。そこで、勲章が経営者の行動にどのような影響を与えるのかについて考えてみよう。そもそも経営者が企業の意思決定を行う際にどのようなインセンティブをもっているのかということはコーポレートガバナンスの観点から大きな関心をもたれてきた。日本の企業が伝統的にアメリカと比較して株価よりも規模や従業員を重視したということはしばしば指摘されているが、その原因の一つとして経営者の報酬と株価の関係が弱かったことが指摘されている 。
分析結果は以下のようにまとめることができる。日本の経営者はアメリカの経営者と比較して、退任後他の会社の社長になることが比較的少ない。典型的には、大企業の社長は退任後、会長になる。業界団体の役員や経済団体の役員を歴任し、そのゴールとして叙勲がある。大企業の社長266人のうち、184人が勲章を受け、82人が勲章を受け取っていない。また、勲章を受ける確率と社長在任時の利益率の間には正の相関があった。さらに、売上高の大きい企業の経営者ほど高いランクの勲章を受け取っていた。
 勲章がキャリア・コンサーンとして機能しているという考え方は一見奇異に見えるかもしれない。金銭的な価値のない勲章が本当にインセンティブとして機能するのであろうか。この点に関しては、近年の行動経済学の発展が参考となろう。経済学者は伝統的に金銭的なインセンティブに着目してきたが、近年では非金銭的なインセンティブの重要性に注目が集まってきている 。勲章に限らず、さまざまな制度がインセンティブとして機能している可能性がある。どのような制度がどのような機能を果たしているかは今後の研究が必要となろう。