表題番号:2006B-077 日付:2007/03/21
研究課題淘汰作用による砕屑物組成の改変過程と源岩組成の復元
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 助手 太田 亨
研究成果概要
 本研究では,砕屑物の淘汰作用による組成変化を補正して,砕屑物の初生的な化学組成を復元する指標の提示を試みた.この特定課題の研究期間には,北海道天塩中川地域に分布する上部白亜系蝦夷超層群並びに熊本県田浦地域に分布するジュラ系葦北層群の砕屑岩試料の鉱物モード組成・化学組成の分析を行った.
 両地域の砕屑岩試料とも淘汰作用による組成の改変を受けていることがわかった.細粒な砕屑岩試料ではAl2O3やK2Oなどが相対的に濃集していた.逆に,粗粒な砕屑岩試料ではSiO2やNa2Oなどの相対量が増大していた.これは,淘汰作用によって層状珪酸塩鉱物が細粒相に分離・濃集した結果を表していると考えられる.したがって,砕屑岩の化学組成データは,初生的な源岩の情報を保持していないことが明らかになった.そこで,本研究ではこの淘汰作用による鉱物・化学組成の改変過程を逆に利用し,組成変化の軌跡から源岩の組成を特定する手法を提唱する.
 砕屑岩類は粒度・淘汰度を反映してSiO2/Al2O3¬―Na2O/K2Oダイアグラム上で線型に配列することがわかった.淘汰作用による組成変化はこの直線上の変動のみに集約されるので,源岩が同一であればすべての試料が同一直線上に配列する.しかし,源岩が異なる場合は,その化学組成に依存して回帰直線の傾きが変化することが判明した.さらに,この回帰直線の起点を求めることによって源岩の化学組成が復元できることが明らかとなった.すなわち,この判別ダイアグラム上では,回帰直線の傾きがおよそ0°の場合,砕屑物の源岩は堆積岩類であると判断できる.傾きが45°の場合は酸性火成岩類由来であり,90°に近い場合は塩基性火成岩類由来と判別できる.
 この研究成果によって,今後は源岩が不明な未知試料であっても,淘汰作用の影響を補正した上で,源岩の化学組成を議論できるようになった.