表題番号:2006B-075 日付:2007/03/05
研究課題詩と翻訳(不)可能性の問題を巡る考察(仏現代詩の場合)
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 助教授 丸川 誠司
研究成果概要
本課題の枠内では、特異な翻訳者でもあったドイツ語詩人のパウル・ツェラン(1920–1970)と、彼の友人だったイヴ・ボンヌフォワ(1923–)、アンドレ・デュブーシェ(1924–2001)、及び同世代のフィリップ・ジャコテ(1925–)、ジャック・デュパン(1927–)、さらにはミシェル・ドゥギー(1930–)の詩の翻訳に関する姿勢の違い、時代的文脈の分析などを試みた。
この研究では、翻訳をしなかったシュルレアリストの後に来た世代が、戦争による文明の破壊を目の前にして、伝統との断絶の見直しという意味で、時間的にも空間的にも遠い翻訳に取り組んだかのようであることを、彼らが行った翻訳と、次期を列挙し強調した。この意味で彼らの翻訳(translation)は語源的に言う伝統(tradition)とも伝達(transmission)とも関わっている。またドイツ・ロマン派以降の翻訳思想がこれらの世代の詩人に及ぼした重要な影響として、1)Bildung (文化=養成)、2)自由訳と逐語訳、3) 翻訳と文献-学、4) 広義の「翻訳」の各問題を検討した。
具体的には、これらの詩人の翻訳についての姿勢の相違点を、翻訳についてかかれたテキストの検討を経て行った。
また、部分的ながら、違う詩人の同じ詩の翻訳の比較検討などを、仏語、ドイツ語、イタリア語を通じて、ネイティブや外国語教員の助力を得て行った。
この研究を進めるにあたり、ジャック・デュパン、ミシェル・ドゥギー両氏から、ツェランに関する貴重な手紙を頂いたほか、冬期にはジャック・デュパンに直接会って、具体的な話を聞くことができた。
この成果は、夏期の日本ツェラーン協会において発表された。発表は、論文として同協会の会報に掲載される。
また、このいわゆる戦後世代の詩人たちがなぜ集中的に翻訳に取り組んだか、ドイツ・ロマン派以降の翻訳思想と哲学の関連について研究したものが、ミシェル・ドゥギーに関する論叢に掲載される。